第8章 セブタン島
「大丈夫? ケガはない?」
ウニに誘導してもらって、は怯える少女に声をかけた。
親に殴られた少女は、泣きはらした顔を上げた。
「あ、ありがとう……」
声はか細く、震えていた。
殴られて赤黒く変色した目元を、ローはしゃがみこんで診察する。
「眼球に傷はついてない。よく冷やせば1週間で腫れも引く」
「なら、売られるのはその後ね……」
絶望に疲れ切った様子で、娘はつぶやいた。
「売られるって……ヒューマンショップに?」
少女の手をぎゅっと握って、は自分が売られるみたいな顔をする。
「……店が潰れて、父は酒浸りになったの。そのうち麻薬にも手を出して、薬のために売れるものはみんな売ってしまった。最後に残ったのは私だけ。その私のことも叩き売ると言っていたわ。私がいても、薬ほど幸せな気分にはしてくれないからって」
親子の家は、一階が潰れて空っぽになった食堂になっていた。痛ましい思いで彼らはうつろな目をする娘を見やる。
軽々しく声をかけることはためらわれた。だが、だけが力強くきっぱりと逃げることを促した。
「ここにいちゃダメだよ。どこか行く当てはある?」
「親を見捨てるなんて――」
「子供を売ろうとするやつなんか親じゃないよ! そんなの人でなしだ」
ウニが否定し、娘は顔を歪めた。この島ではそれが親なのだとばかりに。
「恋人がいるの。でも親不孝な娘なんて受け入れてもらえないわ。親を見捨てたと周囲にバレたら、どこにも嫁げなくなってしまう……」
「売られてまで自分の評判を守りたいなら好きにしろ。――行くぞ。自分で何をする気もないやつに他人が何を言おうと無駄だ」
同じように親に売られたが彼女を見て自分の過去を思い出さないように、ローはを立たせて足早にその場から離れる。
「キャプテン……」
「同調するなよ、。不幸な人間はどこにでもいる。全部に心を痛めてたらキリがない」
「そうだけど……」
ヒューマンショップを案内する看板にローは息を呑んだ。この島では決してから目を離せないと改めて思いを強くする。