第8章 セブタン島
「? どうしたの?」
鼻を擦り寄せて、ベポが尋ねる。
「いま、女の人の悲鳴が――」
次の瞬間、川向こうの家から若い娘が叫びながら飛び出して来て、はっきりとそれはローたちの耳にも聞こえた。
「父さん、やめて!」
酒に酔った父親らしき男に髪を掴まれて引きずり倒される若い娘の姿に、シャチとマリオンが疲れも何のその飛び出した。
ローは最優先でをかばい、船長の腕の中では「ケンカ?」と不安そうな声をあげる。
「ただの親子喧嘩って雰囲気じゃないな」
娘に手をあげる父親に、橋を渡ったシャチとマリオンが飛びかかった。
「おっさんやめろ!」
「女の子に何してんだよ!!」
二人がかりで抑え込んでも、なお抑えきれずに男は暴れまわった。しがみつく大の男二人を振り飛ばして、怯えてうずくまる娘になおも危害を加えようとする。
「ベポ、行け」
「アイアイ、キャプテン!」
たぷたぷのお腹を揺らしながらシロクマは走り、ヘビー級の蹴りを食らわせて酔っぱらい親父をふっとばした。
家先に並んだ植木鉢に男は倒れ込み、起き上がったときには目を血走らせ、園芸用の鎌を手にしていた。
「げ――」
刃物の登場にシャチとマリオンがひるむ。男の膂力は尋常なものではなかった。
「どこのどいつか知らんが余計な真似を! この島では子供は親の所有物と決まってるんだ!!」
錆びた鎌を振りかぶって襲いかかった男を、ローは能力で川に放り込んだ。
「た、助けてくれ! 泳げないだ……っ」
「情けねぇなぁ……」
ため息をつきながら、ペンギンがウニ用に持ってきた浮き輪を投げる。それに掴まったのはいいものの、誰も引き上げようとしなかったので、娘に暴力を奮った最低親父はどこまでも流されていった。