第8章 セブタン島
「……サボテンをくれた人のことが好きなんだね」
まるで自分のことよりサボテンを大切にしているようなロッティの様子に、がぽつりとつぶやく。
びっくりして彼女は目を見開き、そして笑った。どこか寂しそうな笑みだった。
「大好きだったわ。だから花が咲けば、もう一度彼に会えるような気がするの……」
なにか事情があるのだろうかとは思い、もう死んでいるんだろうとローは思った。
ロッティはどちらとも言わず、鬼の形相で走ってくる水着姿の若い男に「あら、ツバメ君」と声をあげる。
「捜しましたよ、お嬢様! だからあれほど一人で行動しないで下さいと言ったのに!!」
やってきたのはロッティの世話人らしき、20代前半の男だった。日頃から相当苦労をかけられているのか、怒り狂っている。イケメンも台無しだった。
「お嬢様って言わないでちょうだい。もうそんな年じゃないのに、恥ずかしいったら」
「じゃあ僕のこともツバメと呼ばないで下さいと言ってますよね!?」
「ツバメは本名じゃない」
「あなたに呼ばれると愛人みたいで嫌なんですよ!」
なんで愛人?と首を傾げるとベポとウニに、ローは「年下の愛人のことをそう呼ぶことがあるんだ」と小声で教えた。へー、と彼らは感心する。
「そうだ、ツバメ君。ちょっとサイフ出して」
「なんですか。あなたを捜して3時間走り回った人間から会ってそうそうカツアゲですか。ありませんよ」
「そんなはずないでしょ。ほらちょっとジャンプしてみなさい」
「嫌です」
「命令よ。散歩と聞いた犬のようにその場で限界まで飛び跳ねなさい」
死ねばいいのにこの女という顔でツバメがジャンプすると、水着のどこに隠していたのか、銃やらナイフがバラバラと砂浜に落ちた。
「そこまで私を憎んでたなんて……」
よよよ、と美女は泣き真似をする。
「だから嫌だって言ったじゃないですか!」
「しかも本当にサイフを持ってないとか、使えないやつね」
「なんでカツアゲ被害者が罵倒されなきゃいけないんですか!」
「仕方ないわ。絶対おいしくないとは思うけど、このツバメを私が食べ尽くしたお肉代わりに置いていくから」
「あんた迷子になるたび他所様のところの食べ物を食い尽くすのやめてくださいよ!!」