第2章 グランドライン
雑巾をしぼるバケツの水は凍えるように冷たかった。
(空気が湿気てる……雪が降るかな)
かじかむ指先に息を吹きかけては甲板掃除の続きを始める。指先で床のつなぎ目を数えて拭いたところを確かめ、続きに雑巾を沿わせて力を入れて拭いていった。
(キレイになってる……のかな?)
作業自体は目が見えなくてもそれほど難しくはないが、キレイになっているかどうかはでは判断がつかなかった。
よくわからないので一往復でまた雑巾を洗おうと、は手探りでバケツを探した。
(確かこの辺に……)
「ここだよ」
ふに、と柔らかい肉球が触れて、の手をバケツに誘導した。
「わー、手が冷たいよ」
言ってベポはの手にふーふーと息を吹きかける。
「見張りなのに手助けしていいの?」
掃除を始めたときからずっと気配があったので、ベポに話しかけられても驚きはしなかった。
「見張りと言うか……が海に落ちないように見てろって言われただけだよ」
「そこまでドジじゃありません」
不機嫌に言うと、ベポはおろおろした。言ったのはキャプテンなのに大人げなかっただろうかと思い直し、は洗った雑巾を「キレイになった?」と尋ねる。
「うん」
「寒いからベポは中に入ってていいよ」
「俺平気だよ。毛皮があるもん」
思うところがあって、は掃除の手を止めるとベポにばふっと抱きついた。確かに感触は毛皮が服を着ているが――。
「ベポはクマなの?」
「今更!?」
声は三重で、残る2つは上から降ってきた。上甲板にいるらしい船長とペンギンが、「何だと思ってたんだ?」と口々に言う。
「モフっとした人かと」
「いやいやいや」
「さもなければ着ぐるみ着た人とか……」
「あー……」
それは誤解しなくもないかと納得する二人とは対象的に、ベポは両手を上げて「クマだよ! シロクマ!」と力説する。