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白夜に飛ぶ鳥【ONE PIECE】

第8章 セブタン島



52.バーベキュー


「キャプテーン、いっぱい獲れたよ!」

 カゴいっぱいに色々と獲ってきたベポたちが戻ってきた。

「競争はどうなった?」

 バスタオルを渡しながらに尋ねる船長の眼差しは、見知らぬ娼婦たちを見る目とは全然違った。
 バレバレですよ、と言いそうになるのをペンギンはこらえる。指摘してしまえば意地っ張りな船長はきっと、無理して押し隠そうとするだろうから。

「……引き分け」
「どうした。不満そうだな」

 を見るトラファルガー・ローの顔は限りなく優しく、幸せそうで、そしてほんの少しだけ苦しそうだった。10年に及ぶ付き合いだが、彼が他の誰かにこんな表情をするのを見たことがない。

(雪が降ってたな……)

 真夏の夏島で、ペンギンは北の海<ノースブルー>の冬の日を思い出す。
 
 初めて会った日、彼は泣きはらした目をしていた。
 小柄で貧相な年下の少年は見るからに弱そうで、なのに地元では名の知れた悪ガキだった自分たちに怯えた様子も見せないから気に入らなくて。

『なに見てんだよ』

 ケンカを吹っかけたのは自分たちだった。そしてこてんぱんにされたのだ。
 年下の少年に負けるなんて生まれて初めての経験で、なのに勝ち誇るでもなく淡々している少年が不気味で、だけど不思議と惹きつけられてならなかった。

 少年――ローはペンギンとシャチに興味なんか示さなかった。
 諦めと絶望に染まった目で、ずっと誰かを待っていた。何時間もただじっと海岸線を見る姿が今も焼き付いている。何があったのかは未だに知らない。彼は決して誰にも、自分の事情を打ち明けようとしなかった。

 それは今も変わらず、船長はどこかでクルーたちにも一線を引いている。その先に踏み込むことは誰にもできないとずっと思っていた。
 ――が船に来るまで。


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