第8章 セブタン島
騒ぎながら海に入る前の準備運動をしているたちを見て、「可愛いですね」とペンギンは目を細めた。
「ああ」
そっけなく頷いて、ローは能力でパラソルを立てる。
「……なんだよ」
何か言いたげなペンギンの視線に、渋面を作ってローは不機嫌に言った。
「いいえ? セクハラしたくなる船長の気持ちもよくわかるなーって」
「嫌味か。心配しなくても二度としねぇよ。……にそう約束したからな」
意外そうな顔をするペンギンを無視して、ローは作業に没頭する。そうしないと考えたところで埒のあかないことを延々考えてしまうから。
(何を傷ついてんだよ。はじめからそのつもりだったろうが……)
8つのときに親に売られて、恋すら知らずに奴隷として海賊の慰みものにされた彼女にとって、向けられる好意は乱暴とイコールなのだ。拒めば殴られ、まだ押し倒される方がマシだなんて言うに、どうして好きだなんて言えるだろう。
自分だけは違うなんて言えない。
彼女にとっては等しく同じ、欲望のはけ口にする言い訳でしかないのに。
「あのぉ、ここ空いてます?」
話しかけてきたのは豊満な胸を水着に押し込んだ若い女の二人組だった。
「……ああ?」
ビーチはいくらでも空いているのにわざわざ声を掛けてきたのは男漁りが目的だから。わかっていても、今はとてもそんな気分になれずに不機嫌な声を上げたローは、女たちの特徴に目を細めた。
女たちがそこそこ美人なので、鼻の下を伸ばして「空いてるよ」と即答しようとしたペンギンを制し、「悪いが空いてない。ほかを当たってくれ」とローは穏便に二人を追い払った。
「もったいない! 一緒にバーベキューすればいいじゃないですかっ」
不満たらたらなペンギンに、ローは小声で言い返した。
「二人ともヤク中だ。痣になった注射痕が見えなかったのか? 十中八九、性病にもかかってる。ナンパじゃなくて客を漁りに来たんだよ」
ぎょっとしたペンギンは、船長の言うとおりに女たちが次のターゲットに声を掛け始めたのを見て身震いした。
「この島じゃ女は買うな。他の連中にも言っとけ」
青い顔で、ペンギンはコクコクと頷いた。