第8章 セブタン島
つないでいた手が離れ、はもう一度取られないように、胸の前で両手を握りあわせる。
「……わかった。悪かったよ。悪ふざけがすぎた」
ローの返答に、はほっと息を吐いた。そして心底安心したように笑う。
「よかった。キャプテンならわかってくれると思ってた」
そのまぶしい笑顔に心をえぐられる。でもその痛みをローは無視した。
クルー同士の恋愛禁止を掲げたハートの海賊団の船長として、そして何よりのために、ないものとして扱わなければならなかった。
「。……男に好意を寄せられるのは嫌か?」
それを恐れているような彼女の様子に、ローは尋ねる。
はうつむき、少しの逡巡の後、話し始めた。
「奴隷のときに……よく好きだって言われたよ。でも私は、私や友達に暴力を振るう海賊のことがみんな嫌いだった。それを正直に言ったら逆上した相手に殴り殺されそうになって、エリザに『そういう時はとりあえず自分も好きって言いなさい』って言われたの。そうすればひとまず、その場で殴られることは避けられるから。代わりにその場で押し倒されるけど、好きって言えばあんまりひどいことはされないし……でも何人もに同じようにしてたら、今度は彼ら同士で揉め始めて、ケンカの原因が私だってわかると副船長に罰として鎖で打たれた。私……トラブルにしたくないんだよ。殴られるのも鎖で打たれるのも嫌。でもどうしたらそれを避けられるかわからないの……みんなのことは大好きだから、私のせいで揉めてほしくない。悪いことになるから、好きなんて言われたくないよ……」
「……二度とに不用意に触ったりしない。約束する」
自分の心に鞭打つように、船長としてローは誓った。自分のこの気持ちからも、を守ろうと。
だってが心底安堵したように、嬉しそうに笑うから。
身勝手に自分の気持ちを優先して彼女を傷つけるような真似ができるはずなかった。
「ベポ! と手をつなげ」
呼ばれて、無実なのに川に放り込まれたシロクマは恐る恐る船長のところにやってきた。また彼がうっかりしやしないかと。
「ベポまだ濡れてるね」
手をつないで、川の匂いがするベポには言った。