第8章 セブタン島
50.失恋
「……悪かったって」
びしょ濡れのまま、えぐえぐと泣くベポにさすがのローも罪悪感を覚えて謝った。毛皮とツナギから水を滴らせながら歩くシロクマは、海から上がった歩く腐乱死体みたいで、ちょっと不気味だった。
「ベポ泣かないで。海に入れば濡れるのは一緒だよ」
船長と手をつなぎながら、もう片方の手ではベポをよしよしと撫でた。
ビーチへ向かう道すがらなので慰め方としておかしくはないが、大雑把ではある。
「わざとじゃない。うっかりしたんだ」
「本当?」
太ってから態度の冷たい船長に、ハートの海賊団のシロクマは目に涙を溜めて確認した。
「ああ」
ついイラっときてうっかり川に放り投げたのだと、ローは頷いた。
「俺もびっくりした」
自分の心の狭さに。下心のないベポにまであんなにイラつくとは。
「……船長、俺らは?」
同じくびしょ濡れでビーチに向かうシャチとマリオンが恨みがましく尋ねる。
「お前らは自業自得だろ」
川から上がってもまだしつこくにセクハラしようとしたので、船長は3回彼らを川に放り込んでいた。もはや泳ぐ気力もなくしていておかしくなかったが、船長にだけいい思いをさせてたまるものかという執念で彼らはバカンスへ向かう。
「……キャプテン、ちょっと来て!」
ローの手を引き、は他のメンツから離れようと駆け出した。
「どうした、」
二人きりになるため、大きな川の間にかかった橋の上にはローを誘導した。
「キャプテン……私のこと好きじゃないよね?」
怯えたように問われてローは言葉を失った。
「……私のせいでみんなの仲が悪くなるのは嫌だよ」
浮かれた気分も一瞬で吹き飛ぶ、痛々しくて悲しい懇願だった。
「キャプテンが色男で女たらしなのは知ってるから……誰にでもそういうことするってわかってるけど、ドキドキしちゃうからやめてほしいし、みんなも怒るから良くないよ。うちの船は恋愛禁止だし……私が不用意にキャプテンに抱きついちゃうのが一番良くないんだけど。これから気をつけるから、キャプテンも必要以上に私にさわらないでほしい」
言葉を選びながら、は慎重に訴えた。ともすれば船長が怒って殴られるのではないかと、どこか怯えながら。