第8章 セブタン島
「ビーチで食べるアイスは格別なのにな。は知らねぇだろうから食べさせてやろうと思ったのに」
「た、食べたい……」
「スイカ割り大会の優勝者には豪華な賞品も出すつもりだったが……そうか、はいらねぇのか」
「……っ」
行きたくて仕方ない顔であわあわするに、ローは「行かねぇなら本当に置いていくからな」とダメ押しした。
船長の服を掴んでは身を乗り出す。でもあと一歩のところで「行く」の言葉が出てこなかった。
「……何がそんなに怖い」
の頬を手のひらで包み込んで顔を上げさせると、やっと彼女は白状した。
「島に着く前……ヒューマンショップに売られる夢を見たの。すごくリアルな夢だった。きっと正夢になっちゃう……」
気にしすぎだとは言えなかった。気味の悪い老婆にあれだけ脅かされた後では。
それでもローはむにむにとの頬を両手で引っ張った。
「キャプテンなにしゅるの」
「俺を信用しねぇクルーに仕置きだ」
「信じてないわけじゃないよ……」
「誰にも売ったりしねぇと言ったよな。助けに行くとも約束した。なのに俺の言葉より、そんな夢を信じるんだろ」
海賊のくせには仕方のねぇ意気地なしだな、とローはの耳まで引っ張る。
「み、耳はダメ……」
頬を染めて抗議するにキスしたいと思いながら、ローは「どうする?」と尋ねた。
「行かねぇならを置いていって俺たちだけで楽しむぞ」
船長にしがみついては泣き出しそうな顔でイヤイヤした。
「言わないなら聞かない」
意地悪く言ってローはの泣き顔を楽しむ。
「一緒に行きたい! でも売られるんじゃないかって怖い……から、キャプテン一緒にいて。手を離さないで」
ローの手をぎゅっと握っては懇願した。
「最初からそう言え」
抱きついてくるの背中をなだめるように叩き、歴史的勝利を得た気分でローは機嫌よく言った。なんなら島にいるあいだ、ずっとこうして抱いていたい。