第8章 セブタン島
「ヒーヒヒヒッ、怖い怖い……さすがは鎖鞭のシェレンベルクを拷問し返しただけはあるね。死の外科医トラファルガー・ロー、気をつけな。海軍はお前さんを狙ってる」
懐からくしゃくしゃになったローの手配書を取り出して、老婆は気味悪く笑った。
「この島に来ているのは海軍本部大佐・静寂のモア。知らぬ間に背後に忍び寄っては、音もなく海賊の首を取るえげつない奴さ。せいぜい用心するんだね。ヒーヒヒヒッ」
笑う老婆に、ローは目を細めた。
「ずいぶんと親切なことだな。俺に恩を売って、てめぇに得があるか?」
「ヒーヒヒヒッ。ただのサービスだよ。船を停められる場所を探してるんだろう。そこに停めるといい。停泊料は安くはないが、船の安全は保証してやろう」
信用できるわけがない。
だがローが周囲の島民たちに目を向けると、彼らはさっと目をそらし、悔しそうにうつむいた。誰も老婆の言葉に異を挟めないのだ。彼女がこの界隈で何かしらの権力を握っているのは間違いないようだった。
「……てめぇの名前は?」
「ヒーヒヒヒッ、色男に名を聞かれるとはあたしもまだまだ捨てたもんじゃないね。あたしは薬師アルゴール。誰かに聞かれたらそう言いな。この街で薬師はあたしだけだからね」
老婆が握る権力の訳をローは理解した。街で唯一の薬師ならば、確かに誰も逆らえないだろう。ほかに医者がいる気配はなく、そもそもそれにかかる金もないほど、島民たちの暮らしぶりは貧しい。
「……この島のログがたまる時間は?」
「十日だよ。ゆっくり楽しんで行くんだね」
何がそんなに面白いのか、アルゴールは耳障りな笑い声を上げる。
「……船に何かあってみろ、てめぇの首を切り離して舳先にくくりつけるからな」
「わーキャプテン悪役みたい」と脳天気に言ったのはベポだった。悪役顔の船長はお褒めの言葉に応えるべく、能力でベポを逆さ吊りにする。
「わー! なんでなんで!? 俺なにかした!?」
「豚は出かけたきゃまずはそこから腹筋50回だ」
「俺豚じゃないよー! シロクマ!」
「豚が寝言を言ってるな。、聞くんじゃねぇぞ」
悲鳴をあげるベポをなんとか下ろそうと手を伸ばしたは、船長の制止におろおろした。
「でも、でも……っ」
「下ろしたらベポは肉屋に売るからな」