第7章 吸血ネズミ
いっそ本当にしてやろうかと一瞬あくどい考えが及び、頭を振ってローは振り払う。
「キャプテン大好き。ガルチュー」
頬ずりされて、可愛くて仕方なかった。さっさと寝かせてしまおうと、ローは周囲を見回して誰もいないのを確認すると、男子禁制の女子部屋にを抱いて入った。
(花の匂いがする……)
セイロウ島の娼館と同じポプリの匂いだった。
潜水艦の内部は狭く、女子部屋は4人で一部屋。それでも今はの荷物しかないので、男子部屋よりはずいぶんとキレイで整然とした印象だ。
あまりジロジロ見ないように気をつけて、ローは一台だけ寝具が設えられたベッドにを下ろした。
「キャプテン……」
「おやすみ」
ピンクがかった美しい金色の髪を撫でて、ローはに毛布をかける。
「……行かないで」
腕を掴まれ、ドキリとした。焦点を結ばない琥珀色の瞳を向けられ、動けない。前にもこんなことがあったのをローは思い出していた。
あの時は、悔し涙を流してシャチが止めに来た。けれど今はクルーは寝静まり、ローが女子部屋にと二人でいることを知るものは誰もいない。
「……。駄目だ」
チッチー。どこかで小さくて甲高い、ネズミの鳴き声がする。
「離れたくない。キャプテンから離れたら、知らないうちにまた死んじゃうんじゃないかって怖い」
「俺は死んでないだろ」
ローはなんとかをなだめようとした。の目に縛られたみたいに体が動かない。抱きしめたい衝動をこえらえるのに必死になりながら、こんなの間違いだとローは自分に言い聞かせた。
(違う。をそんな目でなんか見てない――っ)
ずっと奴隷として海賊の慰み者だった彼女に、二度と同じ思いなんかさせたくない。それは紛れもない本心なのに、同時にキスしたくてたまらない気持ちも否定できないほど強く湧き上がっている――。
が手を離してくれることをローは願った。
だけど彼女は泣き出しそうな顔で首を振った。