第7章 吸血ネズミ
「あの……病気を治してくれてありがとうございます」
「……俺こそ。クルーに聞いた。俺のせいで大事なものを失ったんだろう」
を抱き上げたまま立ち話をするわけにもいかないので、ローは彼女を下ろそうとしたが、はぎゅっとしがみついて離れようとしなかった。
「、どうした。……泣いてるのか?」
予想外の様子に驚くローに、は「ごめんなさい」としゃくりあげた。
「全部私のせいなの。私がちゃんとやれなかったせい。シャチたちを連れてすぐ戻るって言ったのに、できなかったから」
「……俺が聞いた話とずいぶん違うな」
を抱いたままローは甲板に座り込み、なだめるように背中を叩く。
「のせいじゃないよ。は何も悪くない」
横からウニが力説するのでよけいに困惑しながら、ローは「何があったって?」と尋ねた。
ペンギンは船で捕まりずっと檻の中にいたし、ベポとシャチの説明は擬音が多くてよく飛ぶので、実はあまりわからなかった。が誰になんで殴られて火傷までしているのか、どのみち事情聴取は最優先でしなければと思っていたのだ。
◇◆◇
「……つまり、その人形遣いはまだ生きてやがるんだな?」
説明の大部分を担当したウニは頷いた。
「あの口ぶりだと、ブラッドリーの蝋人形と能力者本人は何らかの形でつながってたんだと思う。にすごく……怒ってた」
「手出しはさせねぇよ。次に会ったらこうはいかねぇ。借りは返す」
泣きつかれてウトウトしているを抱く腕に力をこめて、ローは低く言い切った。態度にこそ出さないが、その漆黒の目は怒りで溶岩のようにふつふつと燃えている。
格好いいな、とウニは素直に感嘆した。ブラッドリーには戦闘人形でさえ歯が立たなかったが、彼はきっとそれより強いのだろう。だから安心しても身を預けているに違いないと、そう思った。
「お前もだ」
「……え?」
ぼんやりと考え事をしていたウニは、ローに視線を向けられびっくりした。