第7章 吸血ネズミ
44.リベンジ
「U-2……」
甲板で夕日を見つめていた彼に、は背後から声をかけた。
彼は振り返り、「」と微笑む。思ったよりも元気そうな様子に、はほっと息を吐いた。
「病気、船長さんに治してもらったよ。すごいね、彼。自分もフラフラなのに、完璧に僕のこと治してくれた」
痣の消えた自分の手を見て、信じられないとばかりにU-2はつぶやく。
「ごめんね。僕を治すのに無茶したせいで、手術のあと倒れちゃった」
「キャプテンはタフだから大丈夫」
倒れた彼は今、ベポが付き添って看病している。疲労だけなので、休めばすぐ起き上がれるようになるだろう。
「ここで何をしてたの?」
「夕日を見てた。空も、海も、太陽も……何もかも珍しくて」
ずっと地下で生活していたU-2には、すべてが輝いて見えるようだった。
「すごいね。世界はこんなに鮮やかな色で満ちてる。タペストリーなんとかとは比べ物にならない」
灰色の洞窟生活を少しでも明るくしようと、地下カトパタークの人間たちは自動人形から聞いた地上の色彩を織物に織り込んだ。いつか子どもたちが地上に出られる日が来るのを祈って。
叶うことなどないと思っていたその願いの中に、今自分はいる――。
「あ、ごめん……」
見えないに色鮮やかさの感動を伝えるのは残酷だったかと、ふいに気づいてU-2は落ち込んだ。
は微笑んでU-2の隣に立つ。
「15のときまで見えていたから、地上の色は知ってるよ。もう見ることはできないけど、だからこそ鮮やかに全部覚えてる」
潮風がの髪を揺らした。夕日の光に反射する、ピンクがかったきれいな金髪。白い頬も夕日の色に染まって、彼女をより愛らしくしている。
なんて美しいんだろうとU-2は思った。