第6章 ホワイトガーデン
「スイレン!!」
U-2が止める。彼の体も、じわじわと白い痣に侵食されつつあった。
膝をつき、と同じ目線になってスイレンは語る――丹砂なら彼を癒せると。
「でも……丹砂はもうないって」
「ひとつだけ残っている。……ここに」
スイレンがの手を取り、示したのは自分の心臓だった。は見えない目を見開いた。
「それは――」
スイレンは微笑んだ。
「カトパタークの繁栄は丹砂とともにあった。そして繁栄を支えたのは私達自動人形。――私達は丹砂をコアに作られている」
壁画の意味をシャチたちは理解した。死者を蘇らせ、不老不死を与えた赤い石。あれは人間のことではなかったのだ。
人形の起動と自律行動を意味していたのだと、今更ながらに気づく。
「でも……それを取ったら」
「私は停止する。だからお願いがある。U-2をこの島から連れ出してほしい」
「スイレン……っ!!」
そんなの僕は望んでいないと、U-2は涙ながらに訴えた。
「私の命はU-2に使うつもりだった。でもあなたたちの船長が珀鉛病を治せるというなら、それに賭けたい。U-2に広い世界を見てほしい。……どのみち私は、あの時あなたたちに助けてもらわなければ破壊されていた」
クマ柄の手ぬぐいがまかれた顔に触れ、スイレンは笑う。そこに悲しみや恐怖はなかった。あふれるほどの優しさと、ほんの少しの寂しさだけ。
「人の役に立つため、私は作られた。その本分をまっとうさせてほしい」
泣くのをこらえて、はスイレンを抱きしめた。ここで泣くのは卑怯だ。スイレンは泣けないのだから。
「ごめんなさい……っ」
あなたの命を犠牲にはできないと、拒むことができない。それはの中の残酷な真実。誰を犠牲にしてもキャプテンを助けたかった。誰にどんなに恨まれる結果になったとしても。
「……U-2のことは、俺が責任を持って請け負う。何があろうと船長を説得するよ。そもそも命の恩人を拒むような人じゃないが」
船の副長であるペンギンが「すまない」と付け足して約束した。