第2章 グランドライン
「風紀を……?」
なるべく直接的にならない言い回しを考えた結果伝わらず、ローは諦めた。
「なんでシャチに体を触らせた?」
ああ、とはようやく得心がいった様子で、でもなぜそんなことを聞かれるのかわからないという顔をする。
「シャチに好きだって言われたから」
何かを察してペンギンが顔色を変えてローを見た。苦い顔でローが首肯すると、彼は顔を覆う。
味方は増えたが援護射撃はなさそうで(関わりたくない気持ちはわかる)、ローはシャチの失恋裁判を続ける。
「好きだって言われりゃ誰とでも寝るのか?」
「何かおかしい……? 断れば殴られるでしょう」
「え……!?」
そんなつもりじゃなかったシャチが、動揺して腰を浮かせた。何かの間違いだと確認するように、に詰め寄る。
「俺のこと好きだって言ってくれただろ!?」
「それは――」
困った顔では黙る。それを見てローは自発的なことではないのだと察した。
「男にそう言われたら、『自分も好き』と返せと誰かに言われたんだな? 誰だ」
今日一番びっくりした様子で、は観念したように語り始めた。
「エリザ……奴隷友達」
「トラブルを避ける奴隷の知恵か……」
ものすごくショックを受けてシャチはヘナヘナと座り込んだ。さすがにこの失恋の仕方にはローもペンギンも同情した。ベポもよくわかってない様子ながらも落ち込むシャチを心配しておろおろしている。
ようやくは何かまずいことをしてしまったのかと、不安そうな顔をし始めた。シャチの悲痛な顔が見えたらきっともっと話は早かったのだろうが、それはできないので船長の責任としてローが言うしかなかった。
「……断ればシャチが殴ると思ったか?」
動揺しながらは小さく首を振った。そのことに少なからずローはほっとする。
怯えて応じたわけではないのはせめてもの救いだった。
「キャプテン、私……許可なくシャチに体を触らせちゃいけなかった?」
「許可か……」
そういう話じゃないが、どう説明したものかとローは頭を抱えた。さすがに海賊が恋やら愛やら語るわけにもいくまい。
(いっそ許可なく触らせるのは禁止だとでも言うか……)