第1章 奴隷の少女
「何を遊んでんだ」
咎める口調で言う船長に、シャチは言い訳をにじませながらわめく。
「一対一なら負けねぇよ! ちくしょうあいつら、卑怯な真似しやがって」
「ラウザー海賊団とかいう連中が、この街じゃ幅を利かせてるらしい。街の人間もあいつらにはずいぶん怯えてるみてぇだ。連中が暴れる間、気味が悪いほど黙りこくってやがった。意気地のないやつらだよ」
シャチの言い訳をペンギンが補完する。その口調はむしろ、気概のない街の人間を非難する色が強い。
乗っかるようにシャチが続けた。
「噂じゃあいつら、グランドライン入りに失敗して船がかなり壊れちまったらしい。その修理にしばらくかかるってんで、鬱憤をためて絡んでくるんだとよ。ヒマだからって他人の足を引っ張るような小せぇ器だから失敗するんだろ」
「そのヒマ潰しにわざわざ付き合ってやる義理もねぇ。ここには補給で寄ったんだ。つまらねぇケンカで出港を遅らせる気か?」
「……わかってるよ、キャプテン」
憮然としながらもシャチはそれ以上は口をつぐみ、黙々と物資を積み込み始める。
「キャプテン、だいたい積み込み終わったよ!」
潜水艇の中で物資の整理にあたっていたシロクマ・ベポが甲板から顔をのぞかせて手を振る。
「……よし。行くぞ、グランドライン」
「おお!!」
盛り上がる海賊たちに、若い少女の声がかかった。
「海賊さんたち、出発前にお酒はいかが?」
マフラーを巻いたウェイトレス姿の少女が、酒瓶の木箱を持ってにっこり笑っていた。若いのになんとも商魂たくましい。
「景気づけの一杯か、悪くねぇな」
「よっしゃ、乾杯しようぜ船長!」
物資の中には当然酒もあるとはいえ、可愛らしい少女からの酒はまた別格である。ハートの海賊団のクルーたちはわらわらと甲板から飛び降りて少女のところに殺到した。
「――え?」
だが少女が笑顔で開けた木箱の中身に、彼らは一様に固まった。
そこに入っていたのは酒ではなく、箱いっぱいの爆弾だった。しかもすでに導火線に火がついており、爆発までの猶予はほんの数秒もない。
「ROOM――!!」
反射的にローは自分の能力領域を広げ、海に浮いていた木片と爆弾を入れ替える。
爆発はそれとほぼ同時だった。爆風が船を揺らし、ハートの海賊団のクルーたちをなぎ倒す。