第1章 奴隷の少女
あの人の言葉を辿るように生きる。
これでいいのかと不安に苛まれながら。
北の海にまた冬が来た。
「雪か……」
白い息を吐いてハートの海賊団船長、トラファルガー・ローは曇天を見上げる。
凍てつく空気に、痺れるような寒さ。北の海<ノースブルー>の冬はどうしても、あの別離の日を思い起こさせる。
(それももう終わりだ)
ハートの海賊団は次の航海でグランドラインに入る。スワロー島のいじめられっ子と悪ガキで始めた海賊団は、行く手を阻む海軍、マフィア、そして同業の海賊を相手に北の海を荒らし回り、とうとうグランドラインの航海にも耐えうる潜水艇を手に入れたのだ。
最後の補給に寄ったマルケイ島の港町・リーザタウンは治安の悪さで有名なところだった。
グランドラインを目指す北の海中の海賊が集まる場所なのだから無理もない。すんなりとグランドラインに入れるものなら海賊たちも溜まりはしないだろうが、グランドラインに入るというただそれだけの困難さ故に失敗と難破が絶えず、命からがらリバースマウンテンから戻った者たちが未練がましく次の船を狙い、自分にふさわしい海賊団を見定める場所なのだ。
「物資はそろったか?」
「なんとかな。買い出しの途中で3回もケンカを売られたよ」
食料や日用品といった物資を運び込みながら、ハートの海賊団のクルー、ペンギンが「やれやれ」と言わんばかりに肩をすくめる。
「むやみにそのケンカ買ってねぇだろうな」
「俺はな」
含みのある言い方の理由はすぐに知れた。同じくハートの海賊団のクルーで買い出しに出ていたシャチが頬を腫らして戻ってきたのだ。