第6章 ホワイトガーデン
「一人じゃないよ、スイレンがいる」
は自動人形の手を両手でぎゅっと握った。U-2の状況が過酷で辛いものなのは否定しようがない。でも彼はきっと、スイレンを置いて一人だけ島を出るなんて承諾しないはずだ。
「連れ出してやりたい気持ちはわかるよ。でも地上に出たら病気になっちまうんだろ? それを治せる丹砂はもうないって――」
安請け合いはできないとシャチも首を振る。
「それは――」
「珀鉛病なら、キャプテンが治せるって」
「――本当!?」
ひどく驚いて、スイレンはに詰め寄った。
「本当に丹砂以外で珀鉛病を治せるの!?」
「うん。ええと、悪魔の実の能力で、体内の珀鉛を除去できるんだって。珀鉛に弱い体そのものは変えられないけど――キャプテンもこの島以外じゃすっごく元気だから、治ったら珀鉛にさえ近づかなきゃ大丈夫だと思う」
感極まった様子で、スイレンは両手を口元に当てた。
「ああ、赤き石のあまねく恩寵よ、感謝します……」
これがどれだけの奇跡か、理解もせずにたちはきょとんとしている。
U-2を任せても大丈夫と思える人たちの中に、珀鉛病を治せる医者がいる。そんなの一体どれだけの確率だろう。これが奇跡でなくてなんだろう。
人形であるスイレンの瞳から涙は出ないが、もし泣けたらきっと、スイレンは泣き崩れていただろう。
それを察して、は彼女を抱きしめた。
「U-2は大丈夫。この島を出られる。……だからスイレンも一緒に行こう? 都市はもう、500年も前に滅んだの。スイレンがここに残らなきゃいけない理由はない。U-2を一人にしないで。そばにいてあげて。……キャプテンはきっと許してくれる。私も奴隷で、自由になっても行く宛がなかったのをキャプテンに拾ってもらったの。言葉はぶっきらぼうだけど、すごく優しい人なんだよ。だからきっと、二人が船に乗ることを許してくれる」
この島から自分が出る未来を、スイレンは思い描いたことがなかった。だがにわかに希望が示され、期待してしまうのを止められない。
叶うのならばもう少しだけ、U-2のそばにいたい。そのためならば何とだって戦うから――。
「助けてくれ――!!」
洞窟の先から聞こえてきた悲鳴に、「ゴンザの声だ」とシャチたちは顔を見合わせた。