第6章 ホワイトガーデン
「は平気なのか?」
ゴンザに声をかけられ、はうなずいた。
「どうしてキャプテンだけ……」
「……この中毒はすぐに発症するわけじゃない。長年体に溜め込み続けることで、子孫に影響が出る。俺はその最後の世代。わずかに吸い込むだけでもこのザマだ」
呼吸するたび白い痣が浮き出てくる体を、ローは皮肉げにさらした。
オペオペの実で体内の珀鉛を除去できても、親から受け継いだ珀鉛に弱い体までは変えられない。子供の頃に寿命で死ぬはずだったローの体は、この世でもっとも珀鉛に弱いと言わざるを得なかった。
ローを診察室まで連れて行くと、は船長の体を毛布で包み込んだ。寒いだろうと思ったのかはわからないが、痣を見られたくないローにはありがたかった。
「灰を吸い込んだとしても、すぐに発症するわけじゃないんだね? じゃあ私、みんなを迎えに行かなきゃ」
手当て用の手ぬぐいを出して、は鼻と口元を覆った。出ていこうとするの手を、ローは反射的に掴む。
不安で仕方なかった。に何かあっても、この島ではローは助けに行けない――。
「……すぐ戻ってくるよ。道がわかるのは私だけ。私が行かなきゃ」
「ペンギンとゴンザをつける」
「それはダメだよ。二人にはキャプテンのそばにいてもらわなきゃ」
「平気だ。俺は医者だぞ、自分で対処できる」
「だめ」
優しく言い聞かせるように、はささやいた。
「キャプテンを一人にしたら、私は心配で焦って転んじゃうよ。だからダメ」
「船長命令――」
「そんな無理強いするならキャプテンにセクハラするわ」
顔を近づけられ、ローはたじろいだ。船長の額にキスして、は勝ち誇ったように笑う。
「ずるいだろそんなの……」
キスされた額を押さえてローはうめいた。がその気になったら勝てる気がしない。
「ゆっくり休んでて。すぐ戻るから」
「せめてペンギンを連れて行け。これは絶対譲らないからな」
「はいはい」
船の動作を切り替えて戻ってきたペンギンを連れて、は出ていった。
一人残ったゴンザが気まずそうにする。
「水でも持ってきやしょうか?」
「ああ、頼む」