第6章 ホワイトガーデン
死の記憶を振り払うにはどうしても、生きてる人間の温かい体温や、鼓動が必要だった。
は何も言わずにローを受け入れ、背中をさすってくれる。彼女の体は柔らかく、いい匂いがした。まぎれもない生者の証だ。そのことにひどく安心する。
「……もういいの?」
本当に10秒ほどで離れたローに、は名残惜しそうにした。
「ああ。ありがとう。……、もうひとつ頼みがあるんだが」
「いいよ」
再び両手を広げたに笑って、ローは「今の、誰にも内緒にしてくれ」と頼んだ。
「わかった」
理由も聞かず、は素直に頷く。
「……俺はにずいぶん甘えてるな」
「そうかな」
「の前でよく弱音を吐いてるだろ」
「ええ。ちょっと待って、聞いた覚えがないんだけど、いつ?」
自分の記憶喪失を疑うに、ローは笑った。
「忘れた振りしてくれるのか」
「そうじゃなくて、本当に聞いた覚えがないの。……キャプテン弱音の認識が強すぎるのかも。普通はそんなの弱音じゃないってことまで弱音だと思って、我慢してない?」
「別にそんなつもりはねぇが――」
「きっとそうだよ。キャプテンは弱音いっぱい吐くくらいでちょうどいいよ」
「マリオンみたいになっちまったら困るだろ」
「そうなったら船長交代してあげる」
「――で、もこもこ海賊団を作るって?」
「そうそう。もこもこ着たらきっとキャプテンも癒やされるよ」
みんなもこもこを着てたら世界から戦争はなくなるのにと言わんばかりだった。思わずローは笑った。
「それも面白いかもな」
「でしょ?」
「まあ、俺はそうはならねぇけど」
「えー。……どこかにキャプテンをネガティブにするキノコでも生えてないかな」
「おい、そんなもん俺に食わす気か」
「ちゃんと毎日慰めるから」
「もこもこ着せて? 嫌だよ」
と話していると気分が悪いのも忘れそうだった。実際は全身が痛くて、歩くのもままならない。単にトラウマを思い出しただけではない体調の悪さに、ロー自身困惑していた。