第6章 ホワイトガーデン
「たぶんだけど、この島のログがたまるのにそんなに時間はかからないよ」
言い出したのは火山灰で全身真っ白になったマリオンだった。
「どうして?」
首を傾げるベポにマリオンは「針の動き」とベポの手首のログポースを指す。
「ちょっとずつ動いてるだろ。ログが溜まっていってる証拠だ。もしログが溜まりきるのに何年もかかるような島なら、針はほとんど動かない。この針の動きなら……せいぜい1日半ってところだと思う」
「すごい、マリオン。詳しいんだね」
感心するに、えへ、とマリオンはニヤケ顔をする。
「……子供の頃からずっと、家は兄貴が継ぐと決まっていたから俺は居場所がなかった。ずっと海に出たかったんだ。漁師のおっちゃんに乗せてもらって、船の動かし方や方位の見方をよく教えてもらったよ。おっちゃん今頃、どうしてるかな。元気にしてるといいけど……」
寂しさと心配が混じり合った声に、はそっと彼の腕に触れた。
「国に帰りたい?」
「それはもちろん、帰りたいよ。でも俺に兄貴の代わりはできない……」
まるで殺されてしまうだけなら帰りたいというような口調だった。
(ああ、そうか……神官のマリオンが国外にいるなら、いつか戻って国を正してくれると思えるけど、儀式が失敗してマリオンが殺されちゃったら何も希望がなくなっちゃうんだね。国の人たちを絶望させないためにマリオンは帰れないんだ)
でもそれだって、いずれ「どうして戻ってこないんだ」という怨嗟の声に変わってしまう。恨まれるのは仕方ないとマリオンは思っているんだろうか?
自分の無力が悔しい悔しいって声にならない声が聞こえてくるようで、何かしてあげられたらいいのにとは強く思った。
(私……役に立たないなぁ。ソナーは覚えたけど、いつか世界一のソナーになったって、それじゃマリオンは助けてあげられない……)
マリオンを助けるには船長のような強さが必要だった。彼が国に戻っても殺させずに守ってあげられる強さ。