第5章 密航者
「……、謝りに来た。これ以上ケンカしてたくない」
二人きりになると、ローは率直に切り出した。
「それは……私も、そうだけどーー」
ローはの隣に座った。
「何に一番怒ってる?」
「ベポにしてくれなかったこと」
「そっちか。……それはちょっと事情があるんだよ。不用意にできるなんて言ったのは悪かった」
「意地悪じゃない?」
「意地悪じゃない」
「じゃあ……仲直りする」
握手の手を差し出されて、ローはの細い手を握った。
「……女装屋をバラバラにした件は怒ってないのか」
「うん。最初はひどいと思ったけど、ゴンザに聞いたから。泣いてごめんなさい。びっくりしたでしょ。……あ、甲板掃除する?」
「あれは俺が悪かったからしなくていい。……何か怖かったのか」
安易にベポに聞いたとも言えなくて、ローは水を向けた。
「うん、少し……」
はそれ以上喋ろうとしない。ローは彼女の手を握る力を強めた。
とん、とは隣に座るローの肩に頭を預ける。
「……お母さんは首を刎ねられたの。でも私はお母さんが何と戦っていたのか、それが正しいことだったのかどうかも知らない。もう何も知るすべがない……」
「どこに住んでたか覚えてないのか」
は悲しそうに首を振った。
「世界中まわれば、いつか辿り着くかな? でもあの場所にもう一度行くのも怖いよ。……みんながいれば、平気だけど」
「一人でなんか行かせる訳がないだろ」
「うん……」
頷き、はローの手を握り返す。
「キャプテンと仲直りできて良かった。最近ケンカしすぎだよ」
「がすぐ怒るからだろ」
「そんなことないよ。キャプテンのほうがよく怒ってる」
「俺は……にはそんなに怒ってないだろ」
「そうだっけ? 私はともかく、ベポにあんまり怒らないであげて」
「そういう訳に行くか。そういやの飯を食った仕置きがまだ済んでないな」
思い出して仕置き執行に動くローにしがみつき、は「ベポ逃げて!」と叫んだ。