第5章 密航者
「さっきの話、二度との前でするな」
クルーたちは顔を見合わせ、困惑した。
「……をベポと入れ替えたらどうなると思う」
「ええと、毛皮で大はしゃぎ?」
「絶対喜びますよ」
「もこもこ海賊団にしたいって言ってるくらいだし」
「じゃあベポは?」
「ベポはまあ……の体でとくにスケベなことすることもないんじゃ」
「毛皮なくて寒いとか言いそう?」
「――あ」
最初に気づいたのはマリオンだった。青い顔で考え込む。
「きっと真っ暗で……びっくりする」
明かりをつけてと言い出すだろうか。でもどんなに部屋を明るくしても、の体にいる限り、何も見ることはできないのだ。
絶句するクルーたちに、ローは告げた。
「……ベポの体に入れば、は目が見えるようになる。それをまた真っ暗な世界に戻さなきゃならねぇんだぞ。戻りたくないって泣いて当然だ。それがどれだけ残酷なことかわかってんのか」
◇◆◇
「キャプテン、あの……」
「どうした、ベポ」
贅肉だらけの航海士が船長のもとを訪ねたのは、がベポになりそこねた晩のことだった。
診察室でクルーのカルテを見返していたローは、ベポがここに来るのは珍しいと思いながら話を聞いた。注射嫌いのシロクマは、めったに診察室に近寄らない。
「に謝ってあげるの、無理かなぁ……?」
もじもじと落ち着きなく手をすり合わせて、ベポは多分無理なのはわかってるけど、という様子で切り出した。
「をベポと入れ替える件なら、絶対しない。だから無理だ」
「そっちじゃなくて……マリオンの頭をに触らせた件」
困惑するローに、ベポは声を潜めて言った。
「あのね……のお母さん、が小さい時に首をはねられて死んじゃったんだって。落ちた首を拾ったのはで、一生懸命くっつけようとしても、どうしてもくっつかなかったって。それを思い出して怖かったって言ったんだ」