第5章 密航者
「どうしよう、キャプテン。気持ち悪い……」
「栄養不足の貧血状態で全力疾走なんかするからだ。お前ベポに半分どころかほとんど飯やってたな?」
半分と言い張ったベポはあとで口だけ分解して、勝手な間食や人(主に)から奪った食事をしないよう、物理的に制限することに決め、ローはを抱き上げた。
「針は嫌……っ」
ローの腕の中ではまだ往生際悪く訴える。泣きそうなくらい、本当に嫌そうだった。
「……泣いたら甲板掃除だぞ」
「するから針は嫌……」
ローの首に抱きついて、はイヤイヤと懇願する。これで強行したらしばらく口を聞いてもらえなくなるんじゃないかと思うくらいの拒否ぶりだった。
診察室に戻って寝かせようとしても、はローの首から離れない。
「、手ぇ離せ」
「嫌。離したらキャプテン針で刺すもの……っ」
「女の子を針で刺すとか何考えてんだー!!」
首だけのマリオンがわめく。うるさいと睨みつけてもがくっついてるせいか、効果がなかった。
「ペンギンに甘い物持って来させるから頑張れ」
「甘い物食べたら点滴なんかいらないもん……」
「え、点滴なの?」
ぽかんとマリオンが口を開けた。
「当たり前だろ」
「またまた。医者じゃあるまいし」
「俺は医者だ」
「そんな色男で、船長で、八千万の賞金首で、その上医者とかチートすぎるだろ! 詐欺だ! この詐欺師! 猟奇的詐欺師!!」
「うるせぇ、目玉に注射するぞ」
ピタッとマリオンは黙った。
(何か思い出すな……)
考えて、ローは心当たりに気づいた。18才くらいのシャチがこんな感じだった。
が離れないので、ローは能力でマリオンの首を取り寄せると、「手ぇ出さないなら密航者の頭が落ちるぞ」と脅した。
びっくりして両手を出したの手に、ローは遠慮なくマリオンの頭を落とす。
「なにこれ……?」
長い亜麻色の髪を三つ編みにしているマリオンの首をペタペタ触って、は戦々恐々と尋ねた。
「好きだ。俺と付き合おう、ちゃん」
「きゃあ……!!」
生首だと気づき、が悲鳴を上げてマリオンの首を放り投げる。哀れな密航者は「ぎゃー!」と言いながら転がっていった。