第5章 密航者
「お前本当に国に戻る気あるのか」
「それは……もちろん」
視線をそらして、明らかにウソとわかる態度でマリオンは答えた。
なにか感じるものがあったのか、シャチがマリオンの顔を覗き込む。
「ははーん。さてはお前、姉と一緒だと見つかりやすさも二倍になるから単純に逃げてきたな?」
「ぎく」
図星を突かれてマリオンは動揺した。
「呆れた。故郷で内乱が頻発してるのに放っておく気か」
もっともなローの言葉にマリオンは逆ギレする。
「もともと俺の神官としての素養はゼロなんだよ! 祈りが効果を発揮したことなんか一回もない!
選定も儀式自体が失敗して殺されるのがオチだ。俺のせいにして奴らは選定そのものをうやむやにする気なんだ」
が首を傾げた。
「ごまかせるような儀式なら、そもそも必死になってやる意味なくない?」
う、とマリオンは詰まった。
「……意味はあるよ。選定で選ばれた正当な王がいないと、国は凶事が吹き荒れる。実りは最低、天候はめちゃくちゃ、だから民も内乱を起こしてでも必死で正当な王を望むんだ」
「マリオンが放っておいたらどんどん悪くなるってことだよね」
「そうだけど!! でも俺にできるわけないだろ! 選定の神官は兄貴がなるはずだったんだ。文武に優れた期待の跡取りだよ。
俺なんかみそっかす扱いで一度だって誰にも期待されたことなんかない! それがもう他にいないからって、代わりが務まるはずないだろ……っ」
頭を抱えて、マリオンは「俺にはできない」と拒絶した。
「どこまで逃げようと自分の宿命からは逃げられないのに呑気な奴だな。……まあいい、お前のために進路を変更する気はないから次の島で身の振り方を決めろ。食料はベポのを半分やる」
「えー!! 俺お腹減って死んじゃうよ!」
口の周りにせんべいのカスをつけたベポが悲鳴を上げた。対する船長は冷たい。
「腹の贅肉でも食ってろ」