第5章 密航者
「のごはんを盗んだ密航者はすぐ海に叩き込むぜ!」
ぐすっと鼻を鳴らしてシャチがマリオンを突き落としにかかる。
「ちょっと待ってそれ俺じゃないだろ! そりゃおにぎり盗んだのは悪かったけど――」
「お前の盗んだ食い物はうちのクルーの大事な食料だ。見逃す道理があると思ってんのか」
「う……」
悪いことをしたという認識の薄かったマリオンが、ようやく事態の深刻さを理解して血の気を引かせ始めた。
「ちょっと待って! 戻るわけにはいかないんだ! 俺が一緒にいたらマルガリータが危ないんだよ!!」
甲板の手すりから9割体を飛び出させていたマリオンを、ローとが同時に掴んだ。
「どういう意味だ」
「……俺とマルガリータはある国の要職の血筋なんだ。王の選定をする重要な役目。決して八百長は許されない。だけど海賊と結託した有力貴族が選定結果を偽れと迫った。
……拒んだ一族は皆殺しにされたよ。俺とマルガリータだけがマダムの手を借りて脱出したんだ。俺の国では選定を受けなきゃどんなに権威を握っても王とは認められない。
納得しない国民が内乱を繰り返し起こして、敵は疲弊してる。なんとしてでも俺たちを見つけ出して、偽の選定結果を出させようと大捜索をしてるんだ」
「じゃあマルガリータも狙われてるの?」
作ってもらったばかりの帽子を触って、は心配そうに尋ねた。
「マルガリータはもう大丈夫。俺たちは神性を問われる神官の家系なんだ。女子が選定の儀式を執り行うなら、処女が絶対条件だ。見つかってもマルガリータはもう儀式を行えない。利用価値はないよ」
電伝虫の受話器をひったくって、ローはマダム・シュミットに怒鳴った。
「謀りやがったな、てめぇ!!」
なんて女をよこしてくれたのだ。いわばローのせいで、王の選定という重大な儀式を行うことができる、二人の候補のうち一人が資格を失ったことになる。
『さあ、なんのことだか。あたしはマルガリータが娼婦になりたいって言うから、マシそうな客に水揚げを任せただけだよ』
マダム・シュミットはすっとぼけた。