第5章 密航者
「不満なら別に無理して船に乗らなくてもいいぞ。ゴンザがお前らの倍働く」
「二人分はちょっと」
本当にやりかねないとゴンザは青い顔で小さく抗議したが、人使いの荒い船長はしれっとしたものだった。
「うーん、残ってミネルヴァちゃんと愛の巣を築くのも悪くはないかも――」
「シャチー! 忘れ物よ!」
「ミネルヴァちゃん!!」
噂をすればなんとやらで見送りに来た若い娼婦に、シャチは飛び上がって歓喜した。
「はいこれ、マダムから。二人にって」
「え、俺も? なになに?」
ニヤケ顔でペンギンも甲板から下り――渡された請求書に二人は石化した。
後ろから覗き込んで船長が「まあ一ヶ月も居続けすればこんなもんだろ」と冷静に言った。
「ええとね、お金が足りないといけないと思って、力になってくれそうな人を連れてきたの」
「おうおう兄ちゃん、えらく遊び倒したらしいな? まー若い頃はそんなこともあるだろ! 心配すんな、金は俺らが貸してやるからよ!」
アタッシューケースに入った金を見せびらかして、どう見てもヤ○ザな強面のおじさんたちはにこやかに言った。
「踏み倒せると思うなよ。俺らの支店はグランドライン中にあるからな」
「大丈夫大丈夫、いざとなれば体をちょっと切って内蔵売りゃあそれですむ」
「キャ、キャプテーン!!」
悲鳴はベポのものだった。コック帽をかぶった男に出刃包丁を持って追いかけ回されている。
「助けて俺スペアリブにされちゃうよー!!」
「ベポ!?」
食用肉にされちゃうなんてなにごとかと心配するに、ベポは「久しぶり!」と抱きついた。その感触には飛び上がる。
「誰!?」
「ひどい! 俺、ベポだよ! 忘れちゃったの!?」
「だって、ベポはもっと、もっと……」
触り覚えのないたぷんたぷんとしたお腹に、はハッと気づいた。
「着ぐるみ替えたの? ぶ、豚さん?」
「言い過ぎだ、」
呆れてローは言った。冷たく続ける。
「豚はもっとスマートだろ」
「キャプテンそんなー!!」
一ヶ月で20キロも増量したベポは船長に泣きつこうとしたが、「触んな豚が!!」と船長に冷たく拒絶されて大泣きした。
肉を収めきれずにみちみちだったツナギのボタンがはじけ飛んで転がっていく。