第5章 密航者
「うっわ、キャプテンそのタトゥーどうしたんスか。格好いい!」
ほぼひと月ぶりに顔を合わせたシャチは、船長を見るなり飛び上がって騒いだ。
洞窟の中の隠し入江に、大声が反響する。
「……が針が怖いって泣くから一緒に入れた」
「失礼な! 私泣いてないよ!」
にとっては重大なポイントだったが、シャチはあんまり聞いてなかった。
「マジで!? じゃあ、キャプテンとおそろいのタトゥーを入れたの!?」
「おそろいではないよ。私はおばあちゃんにキョクアジサシとみんなの魂を彫ってもらったの」
独特な表現に首を傾げつつ、とりあえずタトゥーは入れたらしいと判断してシャチは頼んだ。
「あとで見せて?」
「いいよ」
あっさり頷いたに船長は憮然とした。
「、ほいほい見せるな。伝説の彫師のタトゥーが泣くぞ」
「えー、じゃあお金とったらいい?」
「簡単に見せるなって話をしてんだ」
「そりゃズルイですよ、キャプテン。自分は見たからって」
横からニヤニヤとペンギンに言われ、余計なことを、とローは顔をしかめた。
案の定、シャチが「キャプテンは見たのにズルイ!」と同調し始める。
ハートの海賊団は出航のため、最後の積み込み作業を行っていた。予想外に滞在が延び、海へ出るのはほぼ一ヶ月ぶりだった。
「先輩方、忘れ物はないですか」
せっせと真面目に働いていた見知らぬ男に、シャチとペンギンはそろって「誰!?」と飛び退いた。なんで見知らぬ男がハートの海賊団のツナギを着ているのかわからない。
「へぇ、どうもゴンザと申します。このたびこの船にご厄介になりやす」
膝をついてゴンザは丁寧にあいさつした。
元の仕事が大工だそうで、親方に厳しく礼儀は教え込まれたらしい。
「キャプテンなんか知らない男が寝言言ってるんですけど」
「起きてるのに寝言はねぇだろ」
「マジで船に乗せるんですか!」
「ああ」
「俺らに一言の相談もなく!? 入団試験もなく!?」
「このひと月、一度も船に戻ってこなかったやつらに何を相談しろって? 入団試験ならした。合格だ」
主に根性と仕事を嫌がらない真面目さを評価してローは言った。