第4章 白竜の彫師
「そういえば、どうしてうちは『ハートの海賊団』なの?」
に今更の質問され、ローは「俺が心臓手術が得意な外科医だから」と誤魔化した。
「じゃあタトゥーも心臓でよくない?」
サギィの疑問を代弁するように、は首をかしげる。どう説明しようか悩んでいる間に、は「あ、わかった」と声を上げた。
「最初に彫るつもりだった名前の人のイメージがハートなんだね?」
の勘の良さを舐めてたと、ローは顔を覆った。全然誤魔化しが通用しない。
「……ああ、その通りだ」
「ハートの海賊団の名前もその人が由来なの?」
「そうだ」
ふーんとはにやにや笑う。
「……なんだよ」
「キャプテンって一途で可愛いよね」
「ちょっと待て! なんか変な誤解してねぇか!?」
「でもね、初恋の人の名前をタトゥーにするのはやめておいたほうがいいよ」
「初恋じゃない! 聞いてんのかこのクマ耳娘!!」
フードのクマ耳を引っ張るとは楽しそうに悲鳴を上げた。サギィまで「そういう色っぽい話なら早く言ってよ」と言い出す始末だ。
「胸に彫るなら心臓から絡みつくイメージかな?」
「あ、それキャプテンに似合いそう」
「ぐるっと背中まで回して――」
「タチ悪い女の人っぽい! 絶対キャプテンに似合うよ」
「よりタチ悪い女がいるか!」
ローの言うことも聞かず、女子2人は何やら盛り上がっている。その結果サギィが描きあげたのは、ハートの海賊団のドクロを真ん中にハートの模様が絡みつくようなデザインだった。
「ぐるっと二の腕にも同じイメージで彫ったら格好いいと思うんだ」
「すっごくいいと思う」
「見えてねぇだろ、は……」
「見えなくてもわかるもん」
ねー、ととサギィは意気投合した。ちょっと前に海に放り込むとかそういう物騒な牽制をしあっていたはずなのだが、娘たちの謎の生態にローはついていけない。
「じゃ、これでいいよね。お兄さん服脱いで」
「俺の意見は無視か」
「なにか不満があるならもちろん聞くよ?」
「いやデザインに文句はねぇが……」
「じゃあ脱いで脱いで」