第4章 白竜の彫師
「キャプテン、私やってみたい」
「ああ、火傷するなよ」
「ちょっと! いちゃつかないでよ!!」
手を取り足取り至近距離で教えている気配に、サギィは我慢できずにがなりたてた。
「別にいちゃついてないよ」
「ただ茶を入れてるだけだろ」
「はい、サギィの分」
お茶とどら焼きを渡され、サギィはぐったりとうなだれた。
「こんな手強い女、初めてだわ……」
「そりゃ同感だ」
「……褒めてる?」
は半分バカにされてるのを疑ってか不平顔だ。
「どうだろうな」
「むー。キャプテン元気なら私は帰るよ」
「元気じゃない!」
がいればまだサギィに迫られても何とかなるが、いなかったらローに対抗手段はなかった。大蛇の巣に一人残されていくような気分で、ローは必死に引き止める。
「一人じゃ寂しいの?」
「ああ」
「私がいないとダメ?」
「ああ」
「じゃあ後で、もこもこクッション買いに行くの付き合って」
「ああ」
「それから――」
「……あんまり調子に乗るなよ」
上機嫌なに悔しい思いでローは言い返した。
「今なら決闘しても勝てる気がする」
「しない。俺は休暇中だ」
「えー」
うるさいのでローはの口にどら焼きをつっこんだ。とたんには静かになる。口喧嘩のとき用に常に常備しておくべきかもしれない。
「こんな感じでどうかな?」
サギィが見せたスケッチブックには、血の滴る生々しい心臓が描かれていた。
「……そういうグロテスクなのはちょっと」
実物は平気なのだが、絵にされると妙に気持ち悪くて、ローは食欲をなくして食べようとしていたどら焼きを戻した。
「キャプテン食べないの?」
「にやるよ」
「2個は多いよ」
じゃあ後で食べる、とローは気分を変えようとコブ茶を飲み干した。初めてのせいか少し味がしぶい。
「ハートって心臓のことじゃないの?」
「トランプのハートで頼む。……そんなに難しいか?」
「いや、うーん、ちょっと待って……」
サギィはお茶とどら焼きにも目もくれず、うんうん言いながらスケッチブックとにらめっこしている。
基本的に仕事に対しては真面目なので、そうしているとごく平和で気が抜ける。