第4章 白竜の彫師
が落ち込むようなことを言った記憶がなくていぶかしむローの顔を両手で包み込んで、彼女は言い聞かせた。
「いつか必ず、キャプテンの本当のことを全部わかってくれる女の人が現れるよ」
真剣な目と声に気圧されながら、認めたくなくて、ローはわざと苦笑する。
「なんだよ。予言か?」
の瞳は揺らがなかった。
「違うよ。誰でも必ず、一生の中でそういう人に出会うって決まってるの。だからって、簡単に結ばれるわけじゃない。不幸にするからなんて遠ざけたら可能性さえなくなっちゃう。いつかそんな人に会えたら、不幸にしてしまうことに怯えないで、幸せにすることを考えてあげてほしい」
「なんでがそんなに心配するんだ」
は怒って、「キャプテンが自分から不幸になろうとするからだよ!」と眉を吊り上げた。
ムッとしてローは言い返す。
「別に不幸じゃない。自分で決めた生き方だ」
「自分で決めて……それで海賊王になったとしても、人を愛さない人生なんて不幸だよ」
思いの外ぐさりと来て、ローは黙り込んだ。
病気で死ぬしかなかった自分に、命がけで無償の愛をくれた人がいた。愛なんてそれだけで十分だ。まぎれもない本音で、事実なのに、言い返せない。
過去ばかり見ている自覚はあった。彼が死んだあの雪の日が頭から離れない。未来を見て誰かを愛すとか、誰かの愛を受け入れるとか、そんなこと考えられないのだ。
だって彼はもう永遠に、その機会を失った。放っておけば野垂れ死にしたはずの子供を助けようとしたばかりに――。
「……俺にそんな資格なんかない」
彼の無念を果たすその日まで、そんなこと考えられない。考えるべきじゃないのだ。
「キャプテン……」
の心配を無下にする返答だとは理解していた。だから後ろめたくて彼女の顔が見れない。
しかしは責めず、手探りでローの手を探すと、ぎゅっと握りしめる。