第4章 白竜の彫師
「……誰かを愛するのに資格なんていらないんだよ。生きるのに資格がいらないのと同じように。だってみんな死んじゃって……私だけ生きのびて、それが本当に悪いことに思えたときにキャプテンが言ってくれた――笑ってろ、って。みんなもそのほうが喜ぶって。
その通りだって思ったの。私だけ生き延びたことをみんなが恨んでるような気がしたけど、本当のみんなは優しいからきっとそう言ってくれる。だからこの先、もっと幸せになることを私は恐れない。みんなの魂は私と一緒にあるから、それを背中に刻んでもらったから、何があっても私は生きるよ。……キャプテンだって同じなんだよ」
「……っ」
やりきれなくて、ローは強くの手を握り返した。
(知ってるよ……)
本当の彼は誰より優しいから、死を待つ子供のために命も投げ出せるほど強くて優しい人だから――こんな生き方、彼は望んじゃいないと知っている。
名前を彫るのを止められるわけだと奇妙にローは納得していた。こんな本意じゃない生き方を刻みつけるタトゥーなんて、彼が見てたら大反対するのも当たり前だ。
(でも他に俺ができることなんて何もないんだ……)
無念だったはずだ。悔しかったはずだ。彼が命をかけて止めようとした男は、今もこの海で悪行の限りを尽くしている。
それから目を背けて、自分だけ幸せになるなんてできない。
「……やらなきゃいけないことがある。それを果たすまで、どうしても俺は自分の幸せなんて考えられない。もしそれを果たすことができたら……の言ったことをちゃんと考えるよ。約束する」
うん、とは頷いた。
「なら私は、その日までキャプテンのそばにいるよ。約束を忘れてしまわないように」
◇◆◇
翌日。一人ではどうしても気まずいので、ローはをおやつで釣って同行させた。マリーアは当てにならないし、サギィと二人になりたくない。
「来てくれると思ってたよ、お兄さん」
待ち構えていたサギィはまるで、罠を張るタイプの肉食獣か爬虫類みたいだった。拷問好きな海賊との殺し合いさえ平気なローでも、回れ右して帰りたくなる迫力だった。
「サギィ、キャプテンにセクハラしないでね。海に放り込むよ」
頼もしいの背後に、ローは無意識に回り込んだ。