第4章 白竜の彫師
「お前らケンカしたのか」
に信じられないという顔をされて、ローはたじろぐ。
「私は終わったもん。キャプテンは明日、おばあちゃんに彫ってもらえばいいよ」
「ここまで彫ったのはあたしだよ? お兄さんの肌はあたしが一番よくわかってる」
獲物を見つけた肉食獣みたいな目で迫られて、ローは反射的にあとずさった。
「そういう誤解を招きそうなことを言うんじゃねぇ」
「誤解じゃないよ? 何ならあたしの肌も知って欲しいな――」
「キャプテン帰ろう!」
に強引に引っ張られ、ローはその場から退散した。正直助かったと思った。
◇◆◇
船へと向かう帰り道、十分に距離を取ったところでローはぼやいた。
「どうしたんだあれ。カリギュラでも飲んだのか」
媚薬の単語に、は呆れたように両手を腰に当てる。
「キャプテンちょっとは自分が色男だって自覚持ってよ」
「色男って……の中で俺はそういうイメージなのか」
顔なんて見えないのに。しかしは不満そうに「見えなくたってそれくらいわかるよ」とどこか怒ったような口調で言う。
「サギィ、キャプテンに惚れちゃったんだって」
「何でだよ! 彼氏いるんだろ」
「いたって恋に落ちちゃったらしょうがないじゃない」
「しょうがなくねぇだろ! あークソ、俺が何したってんだよ……」
また知らぬ間に刺されそうな案件がひとつ増えて、ローは顔を覆った。
「予定を早めて出航するか……」
「……え、そこまでする?」
「正直に言う。サギィを女として見るのは無理だ。つーか割と人間として見るのも厳しい……いいやつなのはわかるが」
「それ、私じゃなくてサギィに直接言わないと」
「言っても刺したり泣いたりしないか?」
「それはわかんないよ……」
疲れた深いため息に、は罪作りな船長を手探りでベンチに座らせる。ほかになぐさめる方法が浮かばなかったので、頭をもこもこ帽子ごと撫でた。
「……俺に悪いところがあるなら言ってくれ。今後気をつけるから」
「うーん、素でカッコよくて優しいからどうにもならないんじゃないかな」
の返答にローはがっくりと肩を落とした。そんなつもり全然ないのにそう見られるなら、もうどうしたらいいかわからない。