第4章 白竜の彫師
約束の夕方。心配で少し早めに迎えに行くと、はすっかり待ちくたびれていたようで「キャプテン!」とローに抱きついた。
「どうした」
「……ちょっと」
「一人で寂しかったのか? 悪いな、まさかこんなに早く終わるとは」
「仕上げだけだったからね。これでの施術はすべて終了だよ」
まだ抱きついたままのをなだめながら、ローはマリーアから請求書を受け取った。
「マダムの紹介だからね。少し勉強しといたよ」
とはいえ、そこそこいい刀が買えるくらいの額だった。伝説の彫師ならこれぐらいはいくだろう。
「残りはあす持ってくる」
手持ちが足りないので払える分だけ渡し、ローは離れようとしないに「帰るぞ」と声をかける。
「……キャプテン湿布の匂いがする。どこかケガしたの?」
ぎくりとしてローは黙り込んだ。ひねった手首と腰があまりにも痛いので、一度船に戻って手当をしたのだ。が心配しないように手首の湿布は剥がして来たのだが、彼女の嗅覚を舐めてた。
「ゴンザにやられたの?」
「それはコブにもならなかった。……つーか何で知ってる」
「声が聞こえてきたもん。ゴンザはこれで晴れてうちのクルー?」
「どうだかな。今日すでにかなりこき使ったから、出航までに逃げ出すかもしれねぇぞ」
「何させたの?」
「物資の買い出しと積み込み。あと機関室の掃除と整備」
「うわー、重労働ばっかり」
別に虐待ではないが、一人でそれをやったゴンザには同情した。
「出航したあとにこんなつもりじゃなかったって言い出されても困るしな」
船長はしれっとしたものだ。
「お兄さんは明日も来るんでしょ?」
ここに彫らなきゃね、と服の上から体を触ってくるサギィにローが不快感を示す前に、が両手を伸ばして彼女を下がらせた。
「お触り禁止」
「いいじゃない。どうせ明日、直に触りまくるんだから」
「だめ!」
キャットファイトが始まりそうな雰囲気にローは困惑した。