第4章 白竜の彫師
「だからお兄さんの後ろの人だよ。それはダメ、NOって、それはもうすごい反対ぶりで――」
「誰もいねぇだろ!」
まさかのオカルト発言に、若干キレ気味でローは否定した。
一方はなにやら感心している。
「サギィは『見える人』なの?」
「そこまでハッキリ見えるわけじゃないよ。ぼんやりした人影だけ。でもなんか好かれやすい体質みたいでねー、墓場とか行くと引っ張られて体中手形だらけみたいなことはよくあったよ。
おばあちゃんが彫ってくれてだいぶマシになったけどね。幽霊もこれだけ刺青だらけだとびっくりして関わりたくないみたい」
「そっかー、大変だったね」
とサギィは当たり前のように『ソレ』の会話をしている。ローはツッコまずにいられなかった。
「そんなものいねぇだろ!」
「……キャプテン、幽霊怖いの?」
「バカ言え、いないものなんか怖くない」
「……怖いからいないことにしたいの?」
バカにするでもなく、不思議そうには小首を傾げている。口じゃ何言ってもムダそうだった。
「でもキャプテンの刀――」
「あ、やっぱり? あたしも最初に見た時から気になってた」
「うん、夜とかけっこう――」
「おい、なんの話をしてんだよ」
「だからキャプテンの――」
「俺の刀の話をするな!」
持ち主に非業の死を遂げさせる妖刀だとは知っている。知ってて使っているのだ。それ以上のことは知りたくない。
「何の話してるとか、話をするなとか、キャプテン勝手!」
「バカみてぇなもん信じて下らねぇ話をするからだ」
「ちょっと! それあたしのこともバカにしてない!? 幽霊怖いダサ男って彫るよ!」
「そんなことしてみろ、お前の皮膚を剥いで移植し直すからな」
あいにくサギィの肌は刺青でいっぱいなのでキレイに消せはしないだろうが、脅しとしては十分なようでサギィは黙った。
「サギィをいじめないで! 信じないのは勝手だけど、それをバカとか下らないとか言うのはかっこ悪いよ! キャプテンダサすぎ!」
正論にローは言い返す言葉をぐっと飲み込んだ。
サギィは泣き出しそうな顔でローのそばから離れ、が「キャプテンがごめんね」となぐさめる。
嫌でも罪悪感をかきたてられる光景だった。
「……悪かったよ」