第4章 白竜の彫師
どっちを解体しようかローはかなり真剣に考え、大人げを出した。
「……なら先に行け。あとから追いかける」
この島で一度さらわれているので、目を離す選択肢はなかった。
巻き込まれたゴンザは狼狽しているが、は有無を言わさず「行こう」と哀れな襲撃者を引っ張る。
「どこへ?」
「サギィとマリーアおばあちゃんの家。タトゥーを彫ってもらうの」
「すまん。わからん……」
「たぶんこっち」
「――違う。曲がるのは次の角だ」
五歩の距離で二人を見張りながら、ローは後ろから口を挟んだ。
ゴンザは不慣れながらを誘導しようとするものの、「歩くの速い、ちょっと待って」「今度は遅いよ」となかなか息が合わず、目的地につくまでかなり時間がかかった。
◇◆◇
は意地になってローに助けを求めず、なんとか目的地につくと気が緩んだのか、「今日はちょっと遅かったね」と出迎えたサギィに抱きついた。
「わ、どうしたの」
「キャプテンにいじめられたの……」
「ええ? それはひどいね」
「謝っただろ」
「耳引っ張られた……」
「そっちかよ」
「あの、俺――」
サギィの入れ墨にびっくりして固まっていたゴンザが、我に返って所在なげに立ち尽くした。
「もう帰っていい。ここじゃ襲ってくるなよ。針の手元が狂うと危ない」
「はい」
素直に頷くと、ゴンザはペコペコ頭を下げて帰っていく。襲われる原因がもう思い出せなくなってきた。
初めて見る男に、サギィが首を傾げた。
「今の人は?」
「キャプテンにいじめられてたら助けてくれたの」
「おい、記憶を改変すんな」
「してないもん」
「なら記憶障害だな」
診察しようとするとはするりと逃げて、サギィの後ろに隠れた。
「ゴンザに意地悪するからキャプテン嫌い……」
「さっきの人? 誰なの? の好きな人?」
「違う」
即座に否定したローをサギィは呆れたように見た。
「なんでお兄さんが否定するの」
「ここでが肯定しちまったら、話が余計ややこしくなるだろ」
「……ね? キャプテン意地悪だし大人げないの」
「そうだね、困ったねー」