第4章 白竜の彫師
「キャプテンにも責任の一端があるのに?」
「俺の船は失恋旅行のクルーズ船じゃねぇんだぞ!」
大体ゴンザだって自分が失恋した原因が船長をやってる船なんて嫌だろうに。
しかし街の人間にヒソヒソされ、今後もこの狭い島で笑いものになるだろうゴンザにまったく憐れみを抱かないかと言われたら、それほどローも非情にはなれなかった。
「……3日やる。その間に俺に一撃でも入れて見せろ。それが条件だ」
ぐしゃぐしゃに泣いて汚い顔を、ゴンザは輝かせた。
ただし、とローはゴンザの胸ぐらを掴み上げる。
「手元が狂ってにかすり傷でも負わせてみろ。みじん切りにするからな」
真っ青な顔で、ゴンザはコクコク頷いた。
◇◆◇
翌日。
「トラファルガー・ロー、覚悟!!」
道端で後ろから飛びかかってきたゴンザを、ローは能力で入れ替えた。哀れな襲撃者はゴミ箱に突っ込み、ローはこらえきれずにため息をこぼす。
「ケンカ慣れしてねぇのはよくわかったから、せめてもう少し工夫しろ。飛びかかる前に叫ぶな」
朝から7度目の襲撃だった。根性だけは認めてやるべきかも知れない。
「ほら、行くぞ。……なんでそんなに離れてる」
朝から妙に距離を取ろうとするをローはいぶかしんだ。
「私がキャプテンの近くにいすぎると、ゴンザがやりにくいから」
「どっちの味方だお前」
「え……言ってもキャプテン泣かない?」
(泣かすぞ、このクマ耳娘)
頭にきてのパーカーのフードについたクマ耳を引っ張ると、「だめ、取れちゃう!」とは悲鳴を上げた。
「ゴンザ頑張って! キャプテンをぎゃふんと言わせて!」
「俺のクルーなら俺の応援しろ」
「耳引っ張るからいや!」
「お前が先に――」
「隙ありぃ!」
「――うるせぇ!!」
空気を読まずに飛びかかってきたゴンザを、ローは能力も使わずに蹴り飛ばした。八つ当たりだった。
後ろからはローにしがみついて「ゴンザ今のうちだよ!」と完全にルール違反をし始める。