第4章 白竜の彫師
「入団希望者なんでしょう? どうしてキャプテンに怒ってるの?」
「……はぁ?」
連日刃物を持って襲いかかってくる人間がどうすればそうなるのか。ローにはさっぱりわからなかったが、の言葉にゴンザは大粒の涙をこぼしてボロボロ泣き始めた。
「な、なんだ?」
ぎょっとしてローは身構える。
「ヘレナと……うっ、俺は結婚の約束をしてたんだ」
「……あー、キャプテンに本気になっちゃったサロン・キティのお姉さんね」
ぐふっと変な声を上げてゴンザは男泣きする。
まさかの事態にローはうろたえた。
「ちょっと待て、俺のせいかそれ!?」
「色男なんて……うっ、みんな絶滅すべきだ」
なんで見ず知らずの男に絶滅を願われなきゃいけないのだ。何もしてないのに。
「気持ちはわかるけど、キャプテンが絶滅しちゃったら困るよ。……気の毒だけど、ヘレナに失恋したのはあなただけじゃないし」
(あー、他の男にもうまいこと言ってたのか……)
というか目も見えないのに何でがそこまで把握してるんだ。
ローはヘレナの顔もわからなかった。
(寝たのはマルガリータとジルとヴァレンティーナだろ……追いかけ回されたうちの一人か?)
何人かいたはずだが、それ以上はわからない。
「……キャプテンお願いだから、今はちょっと黙っててね。すっごく失礼なこと考えてるのは伝わってくるから」
げんなりした気分で刀を下ろしてローは了承した。に任せたほうが良さそうだ。
(つーか人の思考を読むなよ……)
勘弁してほしい。
ぐすぐすとゴンザは泣き続けていた。
「俺は道化だ。もう街にいられねぇ……」
「それでキャプテンを倒して、自分が船長になって海に出る気だったの? ……気概は買うけど無茶だよ」
「うぅ……っ」
一石二鳥どころか、街の住民たちの注目を集め、さらなる道化と化しているゴンザには同情している。
「ねぇ、キャプテン――」
「船に乗せてやれって話ならお断りだ」