第4章 白竜の彫師
(……寝ちまったか)
夕暮れ。背中でくーくーと寝息を立てているを見て、ローは無意識に小さく笑った。
の背中の刺青がほぼ完成した日の、船への帰り道だった。
(頑張ったからな)
針だけは嫌だと拒否していたのに、何日も痛みによく耐えた。
を背負って歩きながら、自分も昔こうしておぶってもらったことを思い出す。
もう病院には行きたくないと駄々をこねて、うずくまっていたのを無理やり連れて行かれたのだ。
『泣きごと言うな、次こそ治る!! 治るか!! 死ぬか!! 命の瀬戸際だ、ふんばれ!!!』
大きな背中で自分はずっと泣いていたのに、は一つもそんなことを言わない。
(大したもんだ……)
可愛い顔して本当に根性がある。
背中に心地いいぬくもりを感じながら、ローは起こさないように気をつけて帰路をたどる。
「見つけたぞ、トラファルガー・ロー!! 俺と勝負しろ!」
「……ああ?」
連日飽きずに挑んできたゴンザを、ローは睨み殺しそうな目で見やった。
「……あ、すいませんでした」
いつにない殺気にゴンザは反射的に謝ったが、もう遅い。
「んん……なに?」
起きてしまったを下ろして、ローは「ちょっと待ってろ」と言い含めた。
「解剖希望者が満足するまでバラしてすぐ終わらせる」
「いやあの! 出直しますんで!」
空気を読んでゴンザは退散しようとしたが、八千万の賞金首、ハートの海賊団船長トラファルガー・ローは聞いてなかった。刀を抜いてすごむ。
「毎日毎日飽きもせず……俺がてめぇに何かしたか? 真っ二つじゃ物足りねぇなら悪かったよ。望み通り、自力じゃどうにもできないくらい刻んでやる」
「ひぃ……っ」
震え上がるゴンザの声に、まだ眠そうにが止めた。
「キャプテン、あんまりいじめちゃ可哀想だよ」
「……いじめてない。因縁つけられてるのは俺の方だろ」
憮然と言うローは対象的に、は杖で探り探り、腰を抜かして座り込んでいるゴンザのそばに寄った。