第4章 白竜の彫師
「エリザはね……初めてできた同性の友だち。気が強くて、頭もよく回って、私にベッドでの振る舞い方とか、何を言えば男が優しくなるか教えてくれたよ」
思い当たるフシにローはげんなりした。
(……ろくでもねぇ奴隷の知恵を教えたやつだな)
お前のおかげで大変だったと、もし会えたら文句の一つも言ってやりたい。絶対に叶わないことを知ってはいるけれど。
「でも本当は……一番弱いのもエリザだった。夜になるとよく、お母さんに会いたいって泣いてたの。泣いてるときのエリザは小さな子供みたいだった」
その一言で、がどんなに彼女を守ってやりたかったか痛いぐらいわかった。そして実際、は身代わりになろうとしたのだ。
見えない目で爆弾を抱え、友だちを生かすために死のうとした――。
「いつも赤い花の髪飾りをつけてた。南の海の――エリザの生まれ故郷の花だって言ってたわ。海に流れていたのを偶然拾ったの。エリザにとてもよく似合ってた……」
の話にじっと耳を傾け、伝説の彫師マリーアは奴隷の焼印が押された背中に、それはそれは美しいタトゥーを彫り込んだ。
白夜を求めて飛ぶ鳥。南の海の赤い花。争いのない海の音を伝える貝殻。尽きぬ祈りの十字架。世界で一匹の蝶。安らかな眠りを奏でるリュート。
一枚の絵のようにそれらは美しく配置され、まるで今にもの背中から飛び出してしまいそうだった。
「綺麗だな……」
あの痛々しい焼印の痕はもうわからなかった。
目が離せないほど美しいのに、あまりに美しすぎてどこか怖い――そんなものがこの世にあることをローは初めて知った。
(……なんだろうな、この感覚)
焼印が消えてよかったと思うのに、置いていかれたような気分だった。寂しいなんて、そんな風に感じる理由はないはずなのに――。