第4章 白竜の彫師
「きのう、おばあちゃんが背中は背負うものや命を預けるものだって言ってたでしょう? だからキャプテンが背中に彫るなら、ハートの海賊団のマークだろうなって思ったよ」
怖いぐらいその通りだった。やっぱりの勘はあなどれない。
ただは、人に体を見られるのが嫌いなローが服を脱いでまで彫る気になった理由までは気づいていないようだ。本人にそこまでバレたら恥ずかしいので、そのまま気づかないでくれと思いつつ、ローはサギィに促されて施術台に寝そべる。
「私もハートの海賊団のマーク、彫ろうかな」
「はやめとけ」
「どうして?」
「嫁に行く時に困るだろ」
「そんなの気にしない人と結婚するもん」
「男が嫉妬するだろ。可哀想だからやめてやれ」
へぇ、と声を上げたのはサギィだ。
「お兄さんは惚れた女にタトゥーがあったら嫉妬しちゃうんだ?」
「ファッションならともかく、海賊旗なんてあったら妬くだろ。他に惚れ込んでるものがあるって体に刻んでんだから」
「じゃあ、海賊旗を彫った女は恋愛対象外?」
「……さあな。そんなのその時にならなきゃわからねぇだろ」
そもそも自分にまともな恋愛感情があるのかどうかすら、ローは疑問だった。子供の頃からそういうことに疎くて、誰かを特別に好きだと思ったこともない。
性欲の対象は女だが、溜まってるときでも正直ぐいぐい来られると引くし、情が移る感覚が嫌で商売女ともほとんど一回限りの関係にしがちだ。
「とにかくはやめとけ。ドクロなんてグロテスクなもん、似合わねぇよ」
「うーん、キャプテンがそう言うならそうする」
しかしは何か追加で彫りたくてたまらないようだ。痛いからと彫るのを嫌がっているのに。
「名前は彫れる?」
一緒に焼き栗を味わっていたマリーアは頷いた。
「彫れるよ。……誰か亡くなった人かい?」
マリーアの指摘に、「うん」とは悲しく頷いた。
「大事な友だち……自由になる前に殺されちゃったの。私だけ今こんなに自由で、楽しくて、幸せなのが申し訳ない。みんなも一緒に、冒険に連れて行ってあげたいの……」
「綴りはわかるかい?」
紙を引っ張り出すマリーアに、は首を振った。
「じゃあどんな友だちだったか、詳しく教えてくれるかい」