第1章 奴隷の少女
それを救ったのは柔らかい笑い声だった。
「理解したわ。面倒見てあげなきゃいけない船長さんなのね」
蕾がほころんで花が咲くように彼女は笑った。
(かわいい)
(やっぱ女の子がいると船が明るくなるなー)
(わー、なんかほっこりする)
「……、そろそろ黙らねぇと揺れで舌噛むぞ」
ぶっきらぼうな忠告とは裏腹に、船長の手はの頭をいい子いい子と撫でる。船長のかわいがり方はかなりの天の邪鬼で不器用のようだ。
しかしそんな扱いが不満なようで、は口を尖らせた。
「子供扱いしないで。もう16よ――」
最後の言葉を言い切る前に、岩礁にこすって大きく揺れた船の振動では舌を噛んで黙った。
「だから言ったろ」
笑いをこらえ、震える声でローは言った。の目が見えていたら、笑いをこらえるあまり肩まで震わせる船長の姿にもっと怒っただろうが、それはできなかったので彼女は悔しそうにしながらも黙る。
その素直さに、ローは腹を抱えて余計に苦しそうに必死で声を殺した。
(わー、こんな楽しそうなキャプテンって珍しい)
(戦闘時はたまにこんな顔するけど、基本船じゃろくに笑わねぇしなー)
(まあにやける気持ちはすげーよくわかる。これはかわいすぎだろ)
ニヤニヤと見られていることに気づき、ローは咳払いで誤魔化すと仕事に戻った。
「ぼんやりしてんじゃねぇぞ野郎ども。一瞬でも気を抜きゃ、全員仲良く海の藻屑なんだ。しっかり舵を握ってろ」
「アイアイ、キャプテン」
慌ただしく駆け回るクルーたちの音を聞きながら、も自分の仕事をしようと手探りで船長を探し、彼の服を掴んだ。
「どうした。怖くなったか?」
「いざとなったら、あなたを連れて泳がなきゃいけないでしょ?」
くっと喉の奥で笑い、「そりゃ心強いな」と船長はの頭をついまた撫でた。
「面舵面舵! それじゃ行き過ぎだって! 取舵ーっ!」
「くっそ、海深が浅ぇ!」
「目前に岩礁! 揺れに備えろ!」
「こすったぞ! まだいけるか!?」
「キャプテンここ頼んだ! 船底を見てくる!」
「ああ」
船は激しく揺れて、「水漏れ! 一人じゃ手が足りねぇ、誰か来てくれ!」とのっぴきならない怒号が聞こえて来るのに、不思議と沈む不安はわいてこなくて、