第1章 奴隷の少女
「まったく……」
仕方なく診察は後回しにしてを連れてブリッジへ向かう。
「そこ座ってベルト締めてろ」
「ベルト?」
手探りで座席についた安全固定用のベルトを見つけたはいいものの、付け方がわからず苦戦するの横からシャチが手を伸ばして「こうだよ」と固定した。
「ありがとう」
「いやあ……」
でれでれと鼻の下をのばすシャチに嫌な予感を覚えつつ、ローは進路の指示に集中する。
「キャプテン! 海が山を登ってるよー!」
「海の上なら船は走る。落ち着けベポ」
自分が学んだ航海術の常識を超える景色に慌てふためくベポをなだめながらも、ロー自身あまりの光景に圧倒されていた。
だけが極めて平静に、ブリッジの様子に興味深そうに耳を傾けている。目が見えないにしてもその肝の太さは大したものだった。
「こんな揺れてて怖くないの?」
ブリッジを貫くメインマストの柱にしがみつきながら、シャチがに尋ねた。だいぶカッコつけてはいるが、明らかに半泣きだった。
「2回目だもの。ここまでは知ってるわ」
ラウザー海賊団はグランドライン入りに一度挑戦し、失敗している。実際に船に乗っていたにはその経験があった。
「……ちなみに失敗の原因は?」
「山に衝突して船が半分、木っ端微塵になっちゃって」
「よく助かったねー。リバースマウンテンは冬島だから、普通は海の藻屑だよ」
ハートの海賊団の航海士・ベポが心底感心したように言った。
「泳ぎは得意なの」
にっこり笑っては答える。波の激しさを見る限り、泳ぎの練度でどうにかなるような海には見えないが頼もしいのは確かだった。
「泳ぎが得意なのは助かるなー。なんかあったらキャプテンを頼むよ」
恐怖を紛らわせようと、ペンギンも話にまざる。ひどく意外そうには尋ねた。
「船長は泳げないの?」
「誰にでも欠点の一つくらいあるだろ」
渋面を作ってローは答えた。
「いやいや、なに唯一の欠点みたいな顔してんですか」
「好き嫌いは多いし、何でも一人で抱え込んで無茶するし、手ぇかかる自覚ないんスか」
「いざってときとは本当に頼りになるんだけどねー」
「お前ら……」
流れるようなクルーたちの応酬に船長は言い返せもせずに苦い顔をする。