第4章 白竜の彫師
「キャプテン下ろして。もう歩けるから」
「ああ……」
下ろすとは、一人で歩きはじめて行ってしまう。
ウソをついたせいでクルーが離れていくような、そんな錯覚に陥ってローはの腕を掴んだ。
「キャプテン?」
「さっきのは……正確じゃなかった」
の顔を見るたび、こんな後ろめたい気分になるなんてごめんだ。
なのに言葉が出てこない。自分の不甲斐なさにローは自分でも驚いた。
酔った勢いでマルガリータに話したのは、彼女に気味悪がられようとどうでもいいからだ。
珀鉛病が「治らない伝染病」だと誤解し、罵られようと、一晩寝るはずだった娼婦なら忘れればそれですむ。
でももしそれをにされたらと考えたら、喉が凍ったみたいに声が出なかった。
「言いたくないなら言わなくていいよ。私もみんなに知られたくないことあるもの。……生きるために私が何をしてきたか知ったら……きっとみんな軽蔑すると思う」
「そんなことしない」
一人だってそんな真似するクルーは船に乗せたつもりはない。
だから今も同じ気持ちでいるのだと気づき――ローはしぼり出した。
「……珀鉛病を知ってるか?」
申し訳なさそうに、は首を振った。
そのことに少なからずほっとして、ローはを座らせられる場所を探した。
商店街の中心にちょうど広場のような空間があり、ベンチが置かれていた。そこに一緒に座って、ローは話し始める。最初の一言さえ出てしまえば、あとはスラスラと言葉が出た。
「北の海<ノースブルー>のある国の……風土病みたいなものだ。珀鉛っていう金属の中毒が原因で発病する。俺は昔、それにかかってた。体中に白い痣が出て、全身に回ると痛みで死ぬ。治療法はない。……だから全身に広がっていく白い痣を、ただ見てるしかなかった。今は消えたが、未だに自分の体を見るのも見られるのも嫌いだ。両手にタトゥーを入れたのはさっきも言ったとおり、一番目につくから――」
の両手が顔に触れ、ローは言葉を切った。
「今は? 今は痛くない? 苦しくない? お薬とかちゃんと飲んでる?」
心配いっぱいの顔で矢継ぎ早に言われ、ローは自分の不安があまりにバカバカしかったのを知った。