第4章 白竜の彫師
彫る面積が大きいので施術は何時間にも及び、6時間を超えたあたりでの体力が尽きてしまった。
「ほら、おぶってやるから」
「少し休んだら平気……」
そうは言っても、は座ったまま動けるようになる気配がない。の施術はまだ三分の一も終わっておらず、これが連日続くのだ。
「ここで無理しても仕方ねぇだろ」
サギィに手伝ってもらってヘロヘロのを無理やりおぶり、「明日また来る」と言ってローは帰路についた。
船までの道を歩きながら、が背中でささやく。
「キャプテン。手、痛くない?」
両手に彫ったばかりの刺青のことを気にしているようだ。
「こんなのかすり傷みたいなもんだ」
「……どうして両手に入れたの?」
「……休暇中だからな」
「それだけ?」
鋭い指摘に、ローは黙った。
「……もし私がピアスを開けるとしても、両耳にいっぺんには開けないよ。私にとっては目だもん。一時的でも両方使えなくなったら困る。キャプテンもそうでしょう?」
何かの事故でベポが大ケガをして、この瞬間に繊細な大手術が必要になるかもしれない。そのことはもちろんローも考えた。
だからこそ、入れるならこの島で早急に入れてしまいたかったのだ。危険も去り、医者のいるこの島で。
「そんなに入れたい刺青だったの?」
「いいや」
柄はなんでもよかったのだ。ただ墨を入れられれば、それで。
「……言いたくない? 聞いちゃいけなかった?」
説明しようとしない船長に、は不安そうに尋ねる。YESと言ったらきっとは二度と聞いてこないだろう。そして不用意に話題を出した自分を責めるに違いなかった。
「……別に何も面白い話じゃねぇぞ」
「うん」
この島でこの話をするのは2回目だ。
酔った勢いでマルガリータには話したことなのに、に言うのは抵抗を感じた。
「……手は一番目に入るだろ。片方だけじゃ格好悪い」
「そっか。キャプテン凝り性だもんね」
は納得した様子だ。だが本当に納得したのか、納得した振りをしてくれたのかはわからなかった。
自分でごまかしたことなのに罪悪感を覚える。ウソをついたわけではないのに、騙したような――。