第1章 奴隷の少女
自身と仲間の手当を終え、に船内を案内しながら、「あ」とローは足を止めた。
「そこ出っ張ってるから気をつけ――」
ゴン!!とすごい音がして、は額を押さえてうずくまり、声にならない声を上げて肩を震わせる。
「わ、悪かった……」
「これで泣いても甲板掃除?」
「あーまぁ、そうだな」
じゃあ我慢する、と健気なことを言って、は立ち上がる。ぶつけた額が真っ赤になってて痛そうだ。
「こっちがブリッジ。そっちは洗面だ。水をろ過する機械がある。それから――」
壁を触り、ドアの形を触って、は船の内部を手探りで覚えていく。
物覚えはいいようで「このドアさっきの部屋と似てる」とまったく気にしていなかったことを言われては驚くのをひと通り繰り返した。
「そうだ、そこも下にパイプが出てるから気をつけ――」
「わっ!」
忠告の途中では見事にパイプに足を引っかけ、大きな音をさせて頭から前に転んだ。
(なんかすげー既視感が……)
を助け起こしながら、ローはある男のことを思い出す。歩けば転び、飲めば吹き、吸えば肩を燃やした大恩人だ。
(なんだろうな、この符合……)
自爆覚悟の爆弾とか。腹の刺し傷とか。
あまりに共通点が多すぎる気がする。
「この船、罠が多すぎだわ……」
「罠か」
笑いながら、ひょっとして彼女はドフラミンゴの送り込んできたスパイじゃないかと一瞬疑い、友達を亡くして泣いていたあの涙を思い出して、疑うような真似を恥じる。
「それにしても目が見えねぇならもう少し足元には気をつけるもんじゃねぇのか」
「まだ経験が足りないの」
「見えなくなってどれくらいだよ」
んー、とは考え込む素振りを見せた。
「三ヶ月、くらい?」
「最近じゃねぇか!」
予想外の答えにローはを立たせると目を診てやる。
「見えなくなった心当たりは?」
「殴られて、頭をぶつけたの。その時すごく視界が歪んで……日に日に見えなくなって」
「ここじゃ暗くて見えない。診察室に――」
連れて行こうとしたところで、ブリッジから悲鳴に呼ばれた。
「キャプテンー! 進路に山! ぶつかるー!」