第4章 白竜の彫師
「本当? 本当に龍は移動して今は背中にいるの? サギィも見たことある?」
「あるよ。あたしの知る限り、一番キレイな龍。普段は背中にいるけど、時々手や顔に移動してあたしのことをびっくりさせるんだ」
「龍はサギィを気に入ってるからね。おや……ふふ、あんたにも興味があるようだね」
泳ぐようにマリーアの右手に現れた龍の刺青をローは目撃した。驚いて声も出ないローとは対象的に、その姿を見ることができないは「ここにいるの? 触ってもいい?」と半信半疑ながらマリーアの右手に触れる。
「いいよ。でもわかるかねぇ」
に指先でなぞられ、龍はくすぐったそうに体を揺らす。
「少し……冷たい? 蛇の感触に似てる気がするよ」
「おや、蛇を触ったことがあるのかい」
「うん。割とおいしいよ」
びくっとして、龍は慌てて逃げ出した。
「あれ? いなくなっちゃった?」
「に食われると思ったみたいだな」
案外やりかねないかもしれないとローは思った。
「えーそんなことしないよ。今はちゃんとキャプテンが毎日ご飯食べさせてくれるもん」
今は。
つまり食糧難になったら龍でも獲って食べるのか。「おいしいよ?」と言いながら率先して食べる姿が目に浮かんで、ローは笑いをこらえた。可愛い顔して意外とはたくましい。
(針は怖がるくせに……いや)
最初はローの手を握って「痛い?」と泣きそうな顔をしていたのに、今では放っておいてプリンを食べるくらいだ。泣き叫ぶような痛みじゃないのは本人もわかったのだろう。
これはチャンスなんじゃないか――?
「伝説の彫師に彫ってもらえる機会なんてそうそうあるもんじゃねぇな。も動く龍の刺青を入れてみたくねぇか?」
「龍かぁ……でも私、龍は見たことないもん」
「見たことがなくてもいいんだよ。龍みたいに気高く強い人間になりたいって人間がよく彫るから、人気の図柄なんだ」
マリーアがナイスフォローをする。でもは「うーん」と消極的だ。
「龍にはあまり興味がないみたいだね。彫るなら何がいい?」
「……鳥、かなぁ。鎖でつながれた船から、いつも見上げていたの。自由に飛んでる姿がうらやましくて」