第4章 白竜の彫師
服の上から体をなぞりあげられ、ローは辟易した。ここまでセクシャルさに欠けるお触りも珍しい。
サギィが興奮しているのは自分が墨を入れる行為に対してのみだ。
「サギィ、おやめ。一生体に残る刺青なんてものはね、他人に強制されて入れるもんじゃない」
ぴしゃりとマリーアに言われ、「ごめんなさい」と小さく言ってサギィは黙った。すっかり無言になってしまって、よほど落ち込んでしまったようだ。
「……おばあちゃんはどうして彫師になろうと思ったの?」
空気を変えようとしたのか、プリンを食べながらが尋ねた。
「おや。ふふ……こんな年寄りの昔話が気になるかい」
「うん」
邪気のない顔で笑うに、マリーアは話し始めた。伝説の彫師が昔話をするのは、極めて珍しいことだった。
「……あたしはね、若い頃に龍を見たんだよ」
「――龍?」
いきなり話が飛んで、ローは眉根を寄せた。マリーアもと同じぐらい、ちょっと思考が特殊な感じだ。
「今でもよく覚えてるよ。冬の寒い朝だった。凍るような海に入って、朝飯のおかずを採ってたのさ。あたしの家は貧しくて、そうでもしないと食べるものが何もなくてね。そんな家が嫌で嫌で……いつも逃げ出したいと思っていた。
そんな時にふっと空を見上げたら、朝焼けの空を白銀の美しい龍が昇っていったんだ。
すぐ雲に入っちまって、見えたのは一瞬、でも間違いなくあれは龍だった。あんなに美しい生き物を見たのは初めてで、なぜだか涙が出てくるような……もう一度姿を見せてくれないかと、ずっと空を見上げていたよ」
食べ途中のプリンのことも忘れて、は話に聞き入っている。サギィもローも、自然と耳を傾けていた。