第4章 白竜の彫師
「よかった。カップルの依頼ってろくでもないのが多くてさー。自分のものだって印として名前を入れたいとか、揃いのタトゥを入れたいとか。それで別れた後、消してくれって泣きつきにくるんだ。うんざりだよ。いい練習にはなるけど、テンション上がらないったら。自分に彫って練習したほうがマシって感じ」
練習する場所がまだあるんだろうかと、頭を剃り上げて後頭部までびっしりと刺青の入ったサギィの顔を、ローはまじまじと見た。
というか後頭部までどうやって彫ったんだろうか。自分じゃ見えもしないだろうに。
そういう視線に慣れているのか、サギィはからからと笑った。
「顔と頭はおばあちゃんに彫ってもらった。魔除けだよ。初めて見た人は大抵びっくりするけど」
「だろうな」
「ちなみにこれ、彫る前のあたしの顔」
写真を見せられ、ローは危うくコーヒーを吹くところだった。
刺青を彫る前のサギィは清楚系美少女だった。もったいない。
「あはは! みんなそういう顔するよ」
「驚かせるために写真持ち歩いてんのか」
「そうだよー。みんなの反応が面白くて。あたしは悪いやつらが近寄らなくなって助かってるんだけどねー」
「悪いやつら限定か……?」
ニヤリと笑ってサギィは自分の指の指輪を見せびらかした。もちろん、指の先まで刺青でびっしりだ。
「本当にいい男は見た目なんて気にしないからね。何も問題はないよ」
結婚指輪ではないが、彼氏がいるようだ。
「……ちなみにその彼氏も刺青入れてんのか」
「うん。トカゲに生まれたかったらしくて、全身ウロコだらけ」
お似合いカップルのようだ。
「ちなみに仕事は役人」
「マジか」
「マジマジ」
「そいつの写真は持ち歩いてねぇのか」
「残念、今度から持ち歩くよ。港で働いてるからすぐわかるよー」
「そりゃそうだろ」
「海賊もビビっておとなしくなるって本人は笑ってるんだけどね」
つられてローも少し笑う。
「人としての個性を超越してたら当然だろ。海賊より個性的な人間を久しぶりに見た」
「お兄さん、ひょっとして海賊?」
「ああ」
「刺青入れない? 安くしとくよ」