第4章 白竜の彫師
「変えたきゃが俺に勝って船長になるんだな」
「むぅ。ベッドか海の中でならキャプテンにも勝つ自信あるよ」
「それは公平な勝負じゃねぇだろ!」
「陸じゃキャプテン強すぎるもの。生きたままバラバラにする手品も得意だし」
「いやあれは手品じゃ――」
ひょっとしては悪魔の実を知らないんじゃないだろうか。確かめようとしたところで、目的地についてしまった。
一見町外れの普通の一軒家だったが、表を掃除していた娘の姿にローはぎょっとした。
「ああ、ひょっとしてマダム・シュミットの言っていたお客さん?」
「はじめまして、です。こんにちは」
朗らかなアルトの声に、はぺこりと頭を下げる。
「はい、こんにちは。準備はしてるから中へどうぞ。ーーおばあちゃん! お客さんが見えたよ!」
耳が遠い老婆がいるのか、アルトの声の娘は大きな声で呼びかける。
「……見えないとこういう時すげぇな」
「ん、何か変?」
「今の娘、全身が刺青だらけだ。顔すら地肌が見えない。刺青が喋ったのかと思った」
そう言われても、見えないには想像するしかなかった。
「ええ、気になる。どんな刺青? キレイ?」
「……あそこまで行くと、もう違う種族に見える」
ローは明言を避けたが、遠回しに人間に見えないと正直に言った。
「キャプテンそれ失礼だよ」
「いや本人に言う気はねぇが――」
どうぞ、とリビングのドアを開けられ、ローは賢く黙った。
「お邪魔します――」
中には絨毯が敷かれていて、杖の反響音がしなくなった。を目を失って、手探りで船長にしがみつく。
「前にイスがある。わかるか? 背もたれのない、丸いイスだ」
誘導してもらって、なんとかはイスに座ることができた。
空気と声の反響具合から、それほど大きな部屋ではないとは当たりをつける。お湯をわかす音がしているからキッチンを併設するリビングダイニングだろうか。
の予想は当たっていた。部屋は広めのリビングに寝台が2つ置かれた施術室となっており、壁には絵画の代わりに何枚かのデザイン画が飾られている。
「おやまあ、かわいいお嬢ちゃんが来たね」